令和7年度税制改正大綱「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」について~税効果会計の実務への影響~
こんにちは、Yamaguchi@TKCです。
今回は公認会計士・税理士の大谷信介先生によるコラムをお届けします。
令和6年12月20日に与党より令和7年度税制改正大綱が公表されました。
主要な改正項目の中で、令和5年度税制改正大綱に記載された「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」の適用開始時期と適用税率が具体的に公表され、今後の税効果会計の実務に影響することから、当コラムにて見直しの内容と税効果会計の実務への影響を解説します。
なお、当コラムは令和7年1月6日時点の公開情報に基づき作成しています。
1.令和7年度税制改正の概要
(1) 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置の内容
令和7年度税制改正大綱では防衛力の抜本的な強化を行うための安定的な
財源を確保する観点から、税制面では、法人税、所得税及びたばこ税につ
いて、以下の措置を講ずることとされています。
① 法人税
法人税額に対して、税率4%の新たな付加税として、防衛特別法人税(仮
称)[以下、防衛特別法人税]を課すが、中小法人に配慮して、課税標準
となる法人税額から500万円を控除する。
② 所得税
引き続き検討する。
③ たばこ税
加熱式たばこと紙巻たばこ間の税負担差を解消するために、課税方式の適
性化を図る。
(2) 防衛特別法人税
防衛特別法人税は下記の計算式に基づいて計算されます。
防衛特別法人税=(基準法人税額 - 基礎控除額)×4% - 税額控除
① 基準法人税額は所得税額の控除、外国税額の控除等を適用しない法人税額 となります。
② 基礎控除額は年500万円となります。
③ 防衛特別法人税に対して、外国税額、分配時調整外国税相当額等の税額控
除が行えます。
(3) 適用時期
防衛特別法人税は令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。
2.税効果会計の実務への影響
(1) 税効果会計の実務への影響時期
企業会計基準第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針(以下、適用指針)第4項(2)では、法人税等とは、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金をいうとされています。
また、同適用指針第44項では、繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づき、将来の会計期間における減額税金又は増額税金の見積額を計算することとされています。
今回の防衛特別法人税は基準法人税額をベースに算定されるため、適用指針第4項(2)の法人税等の定義に該当すると考えられるため、法定実効税率に影響を及ぼします。
したがって、決算日までに令和7年度税制改正が成立し、法定実効税率の変更が見込まれる場合には、変更後の法定実効税率を用いて繰延税金資産及び繰延税金負債の金額を計算する必要があります。
一方、決算日後に成立した場合には法定実効税率を見直す必要はなく、税効果注記で影響額等を記載する必要があります。
現段階では令和7年度税制改正は成立しておりません。
3月決算法人においては、仮に3月31日までに成立した場合、防衛特別法人税を加味した法定実効税率を適用して令和7年3月期の繰延税金資産等を計算する必要があります。
(2) 法定実効税率の見直し
① 法定実効税率の変更ポイント
以下の図表は資本金1億円超の普通法人に適用される法定実効税率の推移
を記載しています。
なお、防衛特別法人税は基準法人税額から500万円を控除した金額に4%
を乗じて計算されるため、厳密には将来の課税所得と適用される税率に基
づいて計算された防衛特別法人税から算出される防衛特別法人税の税率見
込を算出して法定実効税率を計算すべきと考えられますが、重要性がない
と考えられますが、図表では一律4%として取り扱っています。
② 実務上の留意点
1) 一時差異スケジューリング及び将来課税所得見積額の確認
適用指針第45項では、繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又
は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算するものとされ
ています。
したがって、繰延税金資産等は将来減算一時差異等のスケジューリング
に基づき、将来課税所得等と相殺等することによって減額又は増額する
税金の見積額で計算されることになります。
防衛特別法人税が令和7年3月末までに成立した場合、3月決算の会社
では、令和8年3月期までと令和9年3月期以後適用される法定実効税率
が異なってくるため、一時差異スケジューリングや繰越欠損金の控除年
度などを正確に判断する必要があります。
3月決算会社の令和7年3月末の繰延税金資産の計算を簡単な設例で記載
すると下記になります。
a) 設例
・防衛特別法人税が令和7年3月末までに成立している。
・令和7年3月期に将来減算一時差異1,000あり、当該一時差異は
令和8年3月期に1,000解消する。
・令和8年3月期の税引前利益は800、令和9年3月期の税引前利益は
1,000とする。
・令和8年3月期の法定実効税率は29.74%、令和9年3月期の法定実効税率
は30.64%とする。
・繰延税金資産の回収可能性は全額ありとする。
b)解説
令和8年3月期に将来減算一時差異が1,000解消する見込ですが、税引前
利益は800と解消する1,000に満たないため、令和8年3月期の減額税金
800に法定実効税率29.74%を乗じた238と見積もられます。
税引前利益と相殺できなかった残り200については繰越欠損金として、
令和9年3月期以降の課税所得と相殺します。
令和9年3月期は税引前利益1,000であり、令和8年3月期に発生した繰越
欠損金200と相殺できるため、令和9年3月期の減額税金は200に法定実効
税率30.64%を乗じた61と見積もられます。
この結果、令和7年3月期の繰延税金資産は299となります。
2) 税効果注記への影響
法人税等の税率の変更があった場合には、「財務諸表等の用語、様式及
び作成方法に関する規則」第8条の12第1項で、下記の定めが置かれてい
ます。(参考 適用指針64項にも同類の記述有り)
今回の税制改正が決算日までに成立したものか、もしくは決算日後に成
立したものかにより、税効果注記の内容が異なるため、留意が必要とな
ります。
また、税効果注記では、法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の
負担率との差額がある時には、当該差異の主な項目別の内訳を注記する
必要があります。適用する法定実効税率が変更された場合には、繰延税
金資産等の金額が変更されるため、法定実効税率と税効果会計適用後の
法人税等の負担率にも影響がでてきます。
3) 社内報告の準備
今回の改正により、法定実効税率は上昇するため、繰延税金資産・負債
はともに増加し、結果として損益計算書等の業績にも影響することが予
想されます。
3月決算法人の場合、今期末の業績見通しや来期の計画数値の見直しが
必要になることから、影響額のシミュレーション、社内報告を早期にお
こなうことをお薦めします。
4) グループ通算制度を適用している場合の留意点
繰延税金資産の回収可能性が国税と地方税で異なる場合で、かつ、回収
可能性が異なることによる重要な影響がある場合には、その影響を考慮
した税率で繰延税金資産の計算を行うこととされています(実務対応報
告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関す
る取扱い第9項)。
防衛特別法人税は基準法人税額を課税標準とするため、国税部分の法定
実効税率に影響し、地方税の法定実効税率には影響はないと考えられま
す。
また、グループ通算制度の適用対象となる法人税等の税率が引き上げら
れるため、損益通算等による節税効果が増加することが見込まれます。
5) その他(スプレッドシートの見直し)
税効果会計の実務をスプレッドシートで行っている場合には、今回の改
正内容に基づいたメンテナンスが必要となります。
特に繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われる
と見込まれる期の税率に基づいて計算しなければならないため、「回収
又は支払事業年度ごとに正しい法定実効税率が適用されるシートになっ
ているか否か」「税効果注記に記載する税率変更の影響額が正しく算出
されるシートになっているか否か」などの対応を検討する必要がありま
す。
3.TKC税効果会計システム(eTaxEffect)による実務対応
税制改正により法定実効税率に変更があった場合には上記の通り、スプレッドシートの大幅なメンテナンスが必要となります。
一方でTKC税効果会計システム(eTaxEffect)を利用すると税率変更時にも下記の通り、容易に実務対応や影響額の算定が可能となります。
(1) 法定実効税率の変更(自動計算)
eTaxEffectでは、将来の法人税及び法人住民税、法人事業税等の税率を入力すると法定実効税率は自動的に算出できます。
繰延税金資産等の計算は、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて行う必要がありますが、eTaxEffectでは将来5か年とそれ以降の法定実効税率を年度毎に自動計算することができます。
※令和6年度システム(eTaxEffect)では、防衛特別法人税の税率入力欄がないため、法定実効税率を直接修正する必要があります。
また、当期に使用する法定実効税率と前期に使用した法定実効税率をそれぞれ保持していることから、税率変更による影響数値も容易に算出することができます。
(2) 一時差異スケジューリング方法の確認
一時差異毎に解消時期をスケジューリングでき、将来課税所得も入力できるため、繰延税金資産等の計算は、回収又は支払が行われると見込まれる期の法定実効税率に基づいて行うことができます。
企業分類に応じて、回収可能性を判断し、繰延税金資産等を自動計算してくれることから、基礎数値を入力するだけで計算結果がわかります。また、監査用の帳票やシステム画面により計算過程も詳細に確認することができます。
(3) 自動作成された注記資料等の確認
法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との差額については、システムで自動的に計算してくれます。
また、財務諸表等規則の第8条の12第1項第3号に定める「税率変更による繰延税金資産及び繰延税金負債の修正額」もシステムで自動計算されます。
実務上では非常に手間のかかる計算によって算出される影響額も、システム画面や帳票等で容易に把握することができます。
影響額は、決算開示又は監査の際に問われることがありますので、いつでも対応ができる準備が必要です。
(4) 前期(又は前四半期)データを用いた影響額のシミュレーショ
ン
今回の見直しは、年度末決算の損益にも影響がありますので、前期又は前四半期等のデータを用いたシミュレーションをお薦めします。
eTaxEffectには、過去データをシミュレーションデータとして複製する機能がありますので、システムを使って正確に影響額を算出することが可能となります。
4.本コラムのまとめ
本コラムでは、令和7年度税制改正大綱の防衛特別法人税の創設について、改正内容と税効果会計の実務への影響を解説させていただきました。
令和6年度税制改正で導入された外形標準課税の見直しによる法定実効税率の変更は、新たに外形標準課税が適用される法人に限定されていましたが、今回創設された防衛特別法人税は基本的に全ての企業に影響する改正となっています。
経理部門においては令和7年度税制改正が損益に及ぼす影響の把握と社内報告、決算業務などの実務対応が必要となります。
グループを管理する親会社の立場であれば、子会社に対して、法定実効税率が変わることのアナウンス及び変更による注記等の情報が適時に入手できる体制になっているかを確認する必要があります。
また、グループ通算制度の適用対象となる法人税を課税標準となる防衛特別法人税が創設されたことにより、グループ通算制度を適用した場合には、損益通算等による節税効果が増加することが見込まれます。
過去に税率変更があった場合には、連結納税制度やグループ通算制度の適用を検討される企業が増えていたことから、グループ通算制度を適用していない企業においては、この機会に自社グループにおける適用効果を試算することもお薦めします。
税効果会計の実務においては、長年使用しているスプレッドシートのメンテナンスなどが困難となっている会社も多くあり、自社の業務だけでなく、グループ全体の業務属人化の解消と決算業務の標準化を目的に「TKC税効果会計システム(eTaxEffect)」を導入される会社も多いと聞いています。
参考 【税効果会計の実務の業務課題とシステム導入効果】
まだご利用されていない場合には、是非このシステムを使用した実務対応をお薦めしています。ご興味のある方はシステム体験会などにご参加されれば幸いです。
最後となりますが、令和7年度税制改正大綱には、税制改正の基本的考えとして「今後の法人税のあり方」が記載されています。
ここには、今後の法人税について「レベニュー・ニュートラルの観点からも、法人税率を引き上げつつターゲットを絞った政策対応を実施するなど、メリハリのある法人税体系を構築していく。」ことが明記されています。
令和8年度以降も法人税の改正がおこなわれる可能性についても留意が必要です。
このコラムが役に立ったという方向けに、ぜひ「イイネ・スキ」をクリックしてください!!