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第6回 今後あるべき経理組織の体制

TKC「決算・申告応援マガジン」 でコラムを担当している、IS経理事務所代表の葛西一成です。
上場企業2社で経理部長を務めた経験をもとに、事業会社の経理パーソンに役立つ情報を提供してまいります。
今回のコラムが最終回となります。最後までぜひおつきあいください。

はじめに

経理組織を取り巻く環境は、ここ数年で大きく変化しています。
デジタル化の進展により、従来の数値集計を行う経理業務を効率化して数値分析を中心とした業務への移行を検討する時期にきています。
また、インボイス制度の導入や電子帳簿保存法の改正といった税務対応、新リース会計基準といった制度面の変更も相次いでおり、経理担当者には新たな対応が求められています。

今回のコラムでは、そういった大きな変化に対応するために必要となる、
あるべき経理組織の体制について考えていきたいと思います。

1.現在の経理組織の体制における問題

今後あるべき経理組織の体制について考える前に、現状の体制における業務上の問題点を確認していきます。

(1)属人化による業務の偏り

 経理部門では、特定の担当者に業務が集中する傾向があります。
 例えば、決算手続きや税務申告といった専門性の高い業務は、経験豊富な
 担当者に依存しがちです。
 この状況は、担当者の負担増加だけでなく、組織としての柔軟性や継続性
 を損なうリスクとなっています。

 特に深刻なのは、担当者の急な不在時や退職時の業務継続性です。
 マニュアル化されていない暗黙知が多く、引継ぎに時間がかかったり、重
 要な業務のノウハウが失われたりするケースも少なくありません。
 また、特定の担当者への業務集中は、残業時間の増加やワークライフバラ
 ンスの悪化、さらには経理業務全体の進捗にも影響を与えます。

(2)決算作業の非効率性

 月次決算や年度決算において、データの収集や転記、チェック作業に多く 
 の時間を費やしているケースが見られます。
 特に、システム間の連携が不十分な場合、手作業による確認や修正が必要
 となり、作業効率が著しく低下します。

 例えば、売上データと債権管理データの照合、経費精算データの仕訳計
 上、連結グループ会社からのデータ収集など、本来であれば自動化できる
 作業に多くの時間を割いているのが現状です。

 このような非効率な作業に時間がかかり、経営分析や将来予測といった、
 より付加価値の高い業務に時間を充てることができない状況となっていま
 す。

(3)部門間連携の不足

 経理部門は、他部門との密接な連携が必要不可欠です。
 しかし、多くの組織では、部門間のコミュニケーションが不足しており、 
 必要な情報がタイムリーに共有されていない状況が見られます。

 特に、事業部門との情報連携の遅れは、決算作業の遅延や修正の発生要因
 となっています。
 また、経営企画部門との連携不足により、予算策定や業績予測の精度が低
 下するケースも見られます。

 このような部門間の連携不足は、経理部門が経営の意思決定をサポートす
 る機能を十分に発揮できない原因となっています。

(4)人材育成の遅れ

 経理担当者に求められるスキルは、従来の会計知識に加えて、システムや
 データ分析の能力など、年々高度化しています。
 しかし、多くの組織では体系的な育成プログラムが整備されておらず、若 
 手人材の成長機会が限られています。

 特に、中堅・若手層のスキルアップが課題となっています。
 日々の業務に追われ、新しい知識やスキルを習得する時間が確保できな
 い、また、育成を担当する上司も多忙で十分な指導ができないといった状
 況が見られます。

 結果として、組織全体の専門性が向上せず、外部環境の変化への対応が遅 
 れる要因となっています。

2.今後あるべき経理組織の体制づくり

(1)業務分担の明確化と標準化

 業務の属人化を解消するためには、まず業務プロセスを可視化し、標準化
 することが重要です。
 具体的には、業務マニュアルの整備やナレッジの共有システムの構築、定
 期的な業務ローテーションの実施などが有効です。

 特に重要なのは、タスクの「見える化」です。
 各担当者のタスク内容や進捗状況を組織全体で共有し、特定の担当者に負
 荷が集中していないかを常にモニタリングする必要があります。
 
 また計画的な業務ローテーションにより業務の経験数を増やし、複数の担 
 当者が同じ業務を実施できる体制を整えることで、組織の柔軟性を高める
 ことができます。

(2)システムやツールの活用による効率的な経理業務体制

 システムやツールを積極的に活用し、定型業務の自動化を進めることが重
 要です。
 具体的には、請求書受領業務のシステム化や経費精算の電子化、システム 
 間の仕訳データ連携や自動取り込みなど、できるところから段階的にデジ
 タル化を進めていきます。

(3)経営管理部門との連携強化

 経理部門は、単なる数値の集計部門ではなく、経営判断をサポートする戦 
 略的パートナーとしての役割が求められています。
 そのためには、経営企画部門や事業部門との定期的な情報交換の場を設け
 るなど、部門間の連携を強化することが重要です。
 具体的には、月次の業績報告会や予算策定会議などにおいて、経理部門が
 積極的に関わり、決算情報を提供することが求められます。
 
 また、事業部門との定期的なミーティングを通じて、現場の課題や将来の
 投資計画などの情報を収集し、より精度の高い経営情報の提供を目指しま
 す。

(4)計画的な人材育成プログラム

 若手人材の育成には、体系的なプログラムの整備が不可欠です。
 会計・税務の基礎知識から、システムスキル、分析力まで、段階的に習得
 できる研修体系を構築します。

 特に重要なのは、OJTと外部研修を組み合わせた効果的な育成プログラム 
 の実施です。日常業務での実践的な指導に加えて、専門的なスキルを習得
 するための外部セミナーを積極的に活用します。

 また、システムスキル、経営管理やデータ分析など、これからの経理担当
 者に求められる新しいスキルの習得機会も提供する必要があります。

まとめ

経理組織を取り巻く環境が大きく変化する中、これからの経理組織には
・「業務の標準化による属人化の解消」
・「システム活用による業務効率化」
・「経営管理部門との連携強化」
・「計画的な人材育成」
といった取り組みが求められます。

これらの施策を着実に実行し、経理組織は決算業務中心の役割から、戦略的な経営サポート機能を発揮できる組織こそが、今後のあるべき経理組織の体制といえるでしょう。

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この連載コラムは今回が最終回です。
8月の連載開始から半年間、ご覧いただきありがとうございました!
ぜひいいね!をお願いします。

プロフィール


            元上場企業経理部長
              葛西 一成 氏

大学卒業後、通信機器メーカ―、食品やIT系など複数業界の上場企業及び上場子会社経理を経験。 東証プライム・グロース上場企業2社で経理部長を務めた後、独立開業。
現在は、決算業務サポート/会計関連システムの開発導入支援/執筆活動に注力。
X(旧Twitter)では、フォロワー1.7万人超の「経理部IS」アカウント で、経理の仕事ノウハウに ついて情報発信中。
『週刊 経営財務』 にて「経理の1年〈新人編〉」を連載。
著書:『経理のExcelベーシックスキル』中央経済社

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