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いいときも悪いときも決算書に偽りがあってはならない。ブレーンとしての税理士の力はますます重要になるでしょう。

代表作「半沢直樹シリーズ」「下町ロケットシリーズ」をはじめとして、企業や社会の中でそれぞれの夢の実現や課題の解決に取り組む人々の姿を活写した作品が厚い支持を受ける池井戸潤氏。銀行勤務を経て小説家となり、激動する現代社会と向き合い続けるベストセラー作家の目線に映る税理士像とは?そして、あるべき経営支援の姿について、池井戸氏と長年の作品愛読者であるTKC全国会の坂本孝司会長が語り合いました。

独立性と公正性を堅持しながら経営者の親身の相談相手になること

坂本 テレビドラマや映画になったものも含めて、池井戸さんの作品をたくさん拝見してきましたが、現実の社会を舞台にした物語のリアリティーが素晴らしいですね。

とくに、金融界や中小企業経営の描写には臨場感があります。

池井戸 ありがとうございます。さまざまな小説がありますが、銀行や会社が舞台になるようなものを書くにあたっては、世の中の情勢や時代を反映しているなど、やはり現実の世界と何かしらリンクしているべきだろうなと。

小説の読者には会社で働いていたり、ご自身でビジネスを手がけていたりする方が圧倒的に多いですから、そうした方々が読んだときに「こんなことはありえない」と首を傾げるのではなく、「ああ、わかるわかる」と共感してくださるポイントになる部分が必要だと思っています。

坂本 税理士として企業経営者や金融機関で働く方々と向き合っている立場からすると、どんな逆境にあっても自らの正義を貫く半沢直樹のような銀行員は理想的。

ひとりの職業人としてプライドを持って生きる姿に、こういう人と一緒に仕事がしたいものだと感じていました。

池井戸 正義を書いているとはあまり意識していないのですが、税理士の方が担当する税務や会計の分野で言うとしたら、会社の決算書の数字は絶対的に正しくなければならないですよね。

長く会社を経営していると、その中で経営状態がいいときもあれば悪いときもあると思いますが、それでも決算には嘘や偽りがあってはならない。

いいときはいいなりの、悪いときには悪いなりの正しい数字をきちんと出せる会社が、結局は金融機関や社会から信用されるのだと思います。

坂本 おっしゃる通りで、税理士法の第一条には税理士の使命として「独立した公正な立場において、納税義務の適正な実現を図る」と明記されています。

TKC全国会は現在、1万1千500人の税理士で組織されており、「租税正義の実現」を理念として掲げて、「会計で会社を強くする」ことをモットーに全国の中小企業を支援しています。

「半沢直樹シリーズ」で書かれたのが銀行員の矜持であれば、税理士にとってのそれは、独立性と公正性を堅持しながら、経営者の親身の相談相手になること。

そのために、ときには厳しく指導をしますが、その姿勢が金融機関や税務当局からも高く評価されています。

頼れる「経営助言者」として税理士は、常に学び続けなくては

池井戸 僕の個人事務所の顧問税理士は、実は大学の同期なんです。真面目で信用できることはわかっていたので、お金にまつわることは何でも相談しています。

「これ、経費で落ちる?」というようなつまらないことも聞きますが(笑)、経営上、どういうところに気をつけてどんな組織にしていくのがよいかなど、会社経営に関して日常的に幅広くアドバイスを受けています。

坂本 理想的な関係ですね。池井戸さんの目には、税理士という職業はどんなふうに映っているのでしょうか?

池井戸 うーん、裏方ではあるかもしれないけれど、経営者が最初に頼る相手…ですね。

外から眺めると、「税務だけを担っていればいいんだ」というタイプの方と、いろいろ勉強をして自分なりの志を持って経営者に助言されている方と、ふた通りいらっしゃるように感じます。

坂本 我々が目指すのはまさに後者のような存在です。

組織としての合言葉は「税理士は、経営者にとっての親身の相談者たれ」。

税理士はいつでも数字を見ていますから、会社の経営状態については、いわばカマドの灰のその下まで把握しているわけです。

経営者に寄り添い、唯一気を許せる存在なのですから、税理士に見栄を張る必要はまったくない。そして、税の専門家であると同時に、会計で会社を強くするという視点から、経営者の財務経営力や資金調達力強化の支援をすることが税理士の役割だと認識しています。

池井戸 それに、税務や会計だけなら、仕事は遠からずAIに取って代わられるような気がします。

この先、税理士さん自身が生き残っていくためには、コンサルティングのような業務を担っていく必要があるのではないでしょうか。

坂本 そうですね。我々は税理士の業務を「税務」と「会計」、その2つが税務調査が必要ないレベルまでできているという「保証」、加えて「経営助言」の4つだと定義していますが、今後は経営助言がますます重視されるようになるだろうと思います。

売り上げを伸ばすための施策を提案するところまではなかなか難しいのですが、正しい会計データをもとに利益を確保するための提案をしたり、資金調達の支援、会社と経営者個人両方の顧問としての総合的なアドバイスなどは日常的に実施しています。

池井戸 銀行に勤務していた頃、中小企業への融資を担当していましたが、中小企業が健全に経営していくには、外部専門家による支援がとても重要だと感じていました。

やはり税理士さんは、経営者のブレーンとも呼べる存在になっていくべきでしょうね。

坂本 ええ、もっともっと親身の相談者たりえる仕事をしなければなりません。

国家試験を通れば税理士として最低限の知識は身についているわけですが、TKC全国会では、税理士会の研修受講義務に加えて、年間54時間の生涯研修を会員に義務づけています。

最新の税法、最新の会計システム、経営にまつわるさまざまな情報の共有のほか、顧問先の企業に提供する会計システムの構築などを勉強していただく。会員にとっては大変ですが、それだけに還元できるものも大きいと思います。

会計リテラシーを備えた経営者が「今」を生き抜ける

池井戸 そうした努力を重ねている税理士さんが提供する財務諸表を経営に活かすことが、経営者の役割です。

そのためには、財務諸表を正しく読む力も必要でしょう。銀行員時代の経験に照らしても、やはり中小企業の経営者には、財務体質を健全に保つような経営の舵取りをしていただきたいところです。

それには、会社の状況を早く正確に把握する工夫が必要になります。

坂本 数字で経営を語れる、あるいは金融機関を相手に説明できる最低限の会計リテラシーは、経営者の方にぜひ備えていただきたいと思っています。

それが身についていなければ、せっかく出した数字も意味をなさないですから。

池井戸 月の初旬に前月の試算表が出ているのが理想ですが、ひどい場合だと、何か月も前の状況しかわからないこともあります。

でも、TKC全国会のメンバーである税理士さんが顧問なら、きっとそんなことにはならないでしょう。

坂本 TKC全国会に所属する各事務所では、関与先企業に対し会計帳簿を適時・正確に作成いただけるよう指導し、かつ毎月の巡回監査を通じてそれらの適法性などを確認しています。

その結果、月次試算表や決算書は早期に作成されますが、とくにコロナ禍で社会が大きく変化している今は自社の経営状態をいち早く知ることが重要。

コロナ禍における各種給付金や融資時に必要とされる税務関係書類も正確かつ早期に提供できる点を各方面から高く評価いただいています。


池井戸 この難局を乗り越えるために受けたいアドバイスは、経営者ごとにそれぞれ異なるでしょうから、それに応えていくためにも、税理士さんはより視点を高く持ち、視野を広くしておくことが望まれますね。


坂本 責任は重大です(笑)。

ただ、全国にネットワークを持っているのも我々の強み。

現在、TKC会員事務所は60万社を超える法人税の申告をサポートしており、提供する経営指標やさまざまな情報をもとに、経営の伴走者として、日本の中小企業の存続と発展を全力で支援してまいります。

【プロフィール】
池井戸 潤  いけいど じゅん
1963年岐阜県生まれ。98年、『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2010年、『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、11年に『下町ロケット』で直木賞、20年に野間出版文化賞を受賞。9月28日に最新作『民王 シベリアの陰謀』を刊行。アドバンストアイ株式会社では社外取締役を務める。

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TKC「会計で会社を強くする」