黒字決算を実現し適正に納税した残りを蓄えていく。その積み重ねが会社を強くする秘訣です。
カジュアルイタリアンレストラン「サイゼリヤ」の創業者正垣泰彦会長と、TKC全国会の坂本孝司会長が対談を行いました。正垣会長が創業時に経営の相談をしたのがTKC会員の長田正俊税理士。長田税理士との出会いがあったから、今の「サイゼリア」があるといいます。
「人のため・正しく・仲良く 」を基本理念に
坂本 「サイゼリヤ」といえば、説明の必要もないほど有名な外食チェーンです。特に「おいしさ」と「リーズナブル」を徹底して追求する姿勢は、他の外食チェーンと比べてより強いように感じられます。
正垣 「おいしい料理は高い」「おいしくない料理は安い」。それは、当たり前です。しかし「おいしくてリーズナブル」を実現するのは、たやすいことではありません。しかも、素材が良く、安心も付加されている。
私の経営信念は「お客様に喜んでいただき、社会の役に立つこと」です。それを貫いていれば、利益はあとからついてきます。
坂本 そうした経営信念はどこで培われたのでしょう?
正垣 私は大学時代、物理学を専攻していました。物理ではエネルギーについて学びますが、エネルギーは必ず高い方から低い方に流れます。自我やエゴなく、常に「調和」を目指して動くのです。
私は、ビジネスも同様だと思っています。困っている人を助ける。それが会社の役割です。サイゼリヤの基本理念は「人のため・正しく・仲良く」ですが、まさにこの思いこそが経営のすべてです。
坂本 エネルギーの法則ですか。たいへん面白いお話ですね。私は、浜松に会計事務所を開いており、これまで数多くの経営者の方々とお会いしてきましたが、成功する経営者は共通して「人のため」という思いが強いのです。そのことを正垣会長のお話を聞いて再認識しました。
しかし、サイゼリヤも創業当初はご苦労がおありだったのではありませんか?
正垣 サイゼリヤの第一号店は、1967年、千葉県市川市にオープンしました。一階が八百屋さんで、その二階に店を構えたのですが、当初はまったくお客様が来ませんでした。というのも、一階の八百屋さんがウチの店へと登る階段を野菜で塞いじゃうんですね。また、市川は“あさり”が名産なのですが、“あさり売り”まで加わって階段を塞ぐ。これは店の立地が良くないなと思っていた矢先、火事でお店が全焼してしまったのです。
そんなこともあって、もう店はあきらめようと考えましたが、母からもう一度チャレンジするよう促されたのです。母は常々「自分の身に起こることは、自分のためになること」と言っていました。
その言葉を信じ、再度、イタリアンレストランとしてお店を始めることにしました。とはいえ、前と同じ方法ではお客様が来ないので、考え方も料理も変えてみることにしたのです。
下の八百屋から野菜を仕入れて新鮮な野菜サラダをつくる。あさり売りからは、あさりを買って「ボンゴレ」をつくる。「ボンゴレ」は、おそらく日本の外食産業としてサイゼリヤが初めてメニュー化したのではないでしょうか。料理の価格も思い切って半分以下に値下げしたこともあって、人気となり、お客様がどんどん来るようになりました。
そうなると八百屋もあさり売りも儲かりますから、とても喜んで客引きまでやってくれるようになったのです。
この経験は、私にいろいろなことを教えてくれました。お客様が来ないのは、場所や環境のせいではなく、自分のやり方、考え方が悪いせい。自分の考え方を変えれば、まわりも変わる。そう思うようになりました。
長田税理士との出会いがあったから、今がある
坂本 正垣会長が、TKC全国会の会員税理士で、サイゼリヤの成長を支えることになる長田正俊氏と出会ったのもこの頃でしょうか?
正垣 はい。長田先生と私の父とが知り合いで、1店舗目を始めてすぐに引き合わせてもらいました。
いちばん印象に残っているのは「税金をちゃんと払うように」と指導を受けたことです。
あの頃の私は「正直、税金なんか払いたくない。社会貢献は自分の会社の商品でやっていくんだ」という思いを持っていましたからね。
長田先生はそんな気持ちを見透かして助言してくれたのでしょう。はじめは渋々と税金を払っていましたが、長田先生の指導の意味は後になって理解できるようになりました。
長期に会社経営を安定させるためには、自己資本比率を高めることが不可欠です。自己資本比率を高めるには、毎期、利益を確保し、納税した残りをコツコツと積み上げていかなければなりません。税金を払いたくないから、と経費を膨らませて赤字にしていたら、いつまでたっても会社は安定しないのです。つまり税金を正しく納めなさいという指導は、黒字化し利益を確保することで会社を強くしなさい、ということだったのです。
長田先生は、サイゼリヤの未来を思い、創業当時から会社経営の本質を指導してくださったと本当に感謝しています。その指導がなければ今のサイゼリヤは無かったかもしれませんね。
坂本 正垣会長とともに、長田税理士にもお礼を言いたい気持ちです。
現在、TKC全国会には一万一千四百名を超える税理士・公認会計士が所属していますが、長田先生がTKCに入会された昭和四十九年は、まだ会員が千名にも満たない頃です。その当時から会社経営と税務の本質を指導された長田先生。そしてその指導内容を素直に受け入れ、実践された正垣会長。
その二人三脚の歩みによる「黒字決算」と「適正申告」の実践が、今日のサイゼリヤの礎を築いていくことになったのですね。
数値データの裏にある本質。それを見極める
坂本 正垣会長は物理学科のご出身ということですが、会計データは経営にどのように活用されていますか。
正垣 すべての経営判断や意思決定は、会計データをもとに行っています。
サイゼリヤには、国内外に現在1,500以上の店舗がありますが、ひとつひとつの店舗の状況は会計データを見れば即座に掴めます。来店客数の増減、粗利が多い店舗、少ない店舗など、数字はすべてを教えてくれます。
ただし、これは表面的なものなので、実は数字の裏に潜む「本質」に目を凝らすことが必要なのです。たとえば、会計データから「ある店舗の客数が減った」という事象が見えたとします。
多くの経営者はそれを店長や従業員のせいにしがちですが、それは表面的な数字しか見ていないからです。私は「客数が減った」のは経営者、つまり私自身の責任と捉えます。
ひとつの店舗で現れた「客数減少」という事象は、この先、全店舗にひろがっていくサインかもしれない。
だから、やり方を変える必要があると考えます。経営に変化はつきものです。その変化に出会った時に、本質的な要因を読み取る力が経営者には求められているのです。
坂本 経営に変化はつきもの、とおっしゃいましたが、まさに今はコロナ禍でビジネス環境は激しく変化していますね。
正垣 はい。現在、コロナ禍で多くの飲食店がピンチを迎えていると思います。たしかにこの状況では、お客様は今まで以上に行く店を絞るようになります。
でも、逆に考えれば、こんな状況の中でも選ばれるお店がある。そのお店はコロナ禍が収束したあと、どんどんお客様が足を運んでくれる繁盛店になるでしょう。
だからこそ、そうなるために今なにをすべきか、を考えるのです。ピンチの時こそ、会社も変わるチャンスなのです。そう前向きにとらえて、若い経営者の皆さんにもがんばってもらいたいと思います。
会計で会社を強くし、地域・社会に貢献!
坂本 本日の対談の中で、正垣会長は「人のため」という言葉を何度も使われましたが、今年50周年を迎えたTKC全国会の基本理念も、それと重なる「自利利他」です。
私たちは、正垣会長が実践されているような適正な申告・納税をますますひろげ、支えていきたいと考えています。
正垣 TKC全国会の税理士さんには、ぜひ会社を強くし、成長させるために何が必要なのかを若い経営者に指導してほしいと思います。その意味するところが正しく伝われば、きっと多くの経営者はしっかり納税しながら会社を成長させることでしょう。中小企業は大きな企業になるための通り道。会社の成長を通じて社会貢献することが経営者の喜びにつながりますから。
坂本 まったくその通りです。「会社は大きくなるために生まれてきた」というのが私の持論です。
経営者の最も身近な伴走者である税理士としっかりタッグを組み、会計で会社を強くしてもらいたいと考えています。
本日はどうもありがとうございました。