第5回 人材採用と人材募集にあたり必要な業務環境
はじめに
TKC「決算・申告応援マガジン」 でコラムを担当している、IS経理事務所代表の葛西一成です。
上場企業2社で経理部長を務めた経験をもとに、事業会社の経理パーソンに役立つ情報を提供してまいります。
経理部門における人材採用は、近年ますます難しくなっています。
少子高齢化や労働市場の変化により、専門性の高い経理人材の確保は企業にとって大きな課題となっています。
そこで本コラムでは、経理部門における効果的な人材採用と業務環境の整備について、長年の経理経験を踏まえてお伝えします。
1.人材採用は選ぶ側から選ばれる側に
かつては企業が人材を選ぶ時代でしたが、現在は優秀な人材に選ばれる企業になることが重要となってきました。
そして、この優秀な人材に選ばれるためには、経理部門として魅力的な業務環境を整備することがポイントとなります。
具体的には、以下のような点に注意を払う必要があります。
・明確なキャリア形成のロードマップを提示
・スキルアップのための学習や資格取得の支援
・構成で納得できる評価制度と給与体系
・柔軟なワークライフバランスへの配慮
キャリア形成、学習支援、評価制度は、優秀な人材を引き付けるための重要な要素です。
単に給与が高いだけでなく、自分の将来像が描ける業務環境を提供することが、優秀な経理人材の採用につながります(自分の価値を高めることができる環境を重視する経理パーソンは多い)。
2.きちんとシステム環境は用意するべし
経理業務におけるシステム環境は、人材採用において重要な要素です。
最新のクラウド会計システムやその周辺システムを導入することで、以下のメリットがあります。
・業務効率の大幅な向上
・経理業務の精度向上
・若手経理のモチベーション維持
・専門的なITスキル習得の機会創出
最新のシステム導入は、単なる業務効率化だけでなく、企業の経理部門の専門性の高さを示す重要な指標となります。
また、若手経理パーソンは最新のシステムや新たな技術に触れられる環境で効率良く業務を進めることを求めており、システム投資は結果として経理人材の確保にも役立ちます(システムが活用できず手作業ばかりの環境では、時代遅れの経理として避けられる傾向あり)。
3.特定人員への依存体制をなくす
属人化された業務体制は、組織にとって大きなリスクとなります。
そのリスクを回避するには、以下の対策が重要です。
・包括的な業務マニュアルの整備
・定期的な業務ローテーションの実施
・経理業務の徹底的な可視化
業務の属人化は、経理部門におけるリスク管理上警戒すべき課題です。
一人の担当者に依存せず、業務を標準化するためのマニュアル作りや、業務の可視化をすることで、突発的な人員の変動にも柔軟に対応できる体制を築くことができます。
これは、経理部門という組織の継続性と安定性を確保するための重要な取り組みとなります。
4.選定システムは実績のあるシステムを選ぶべし
2.において、システム環境の構築は人材採用においても重要であることを解説しましたが、その際、システム選定も重要な課題であるという認識をもたなければなりません。
そして選定では、以下の点に注意を払う必要があります。
・信頼性の高いベンダーの選択
・自社の規模に見合うシステムの選択
・セキュリティ対策や統制機能が十分なシステム
・ユーザーフレンドリーなインターフェース
システム選定は、単なるコスト比較だけでなく、長期的な視点で行う必要があります。
信頼性、拡張性、セキュリティ、統制機能(承認機能など)は、経理部門のシステム選定において最も重要な評価基準となります。
また、UI(ユーザーインターフェイス)の高いシステムは、経理スタッフの業務効率と満足度を大きく向上させるため重視しなければなりません。
5.退職代行が増えている状況も踏まえて、引継ぎの仕組みはきちんとすべし
近年、従業員の急な退職も珍しくありません。退職代行といったサービスによって、突然従業員の退職が知らされることもあります。
そうした状況を踏まえ、以下の対策でスムーズな業務の引継ぎができるようにしておかなければなりません。
・詳細かつ明確な作業マニュアルの作成
・定期的な業務内容の文書化
・担当者の業務が把握できるタスク管理
近年の労働市場の流動性を考えると、いつ誰が退職しても業務に支障をきたさない体制づくりが不可欠です。
そのためには、業務タスクを見える化し、そのタスクに紐づく作業をしっかりマニュアルに落とし込むことで、属人的な業務処理を防ぎ、経理部門を業務を継続させることができます。
まとめ
経理部門における人材採用は、単に人を集めることではありません。
魅力的な業務環境、最新のシステム、柔軟な業務体制を整備することが、優秀な経理人材の採用に繋がり、組織を維持する鍵となります。
また、効率よく経理業務を進めるためにシステム化を推進し、作業しやすい環境を整えることも経理人材の確保に必要とされています。
そして、これからの経理部門は、常に進化して変化に対応し、魅力ある組織を作って人材確保に努めなければならないと考えます。
今後も、経理実務における課題と解決策について取り上げていきます。
次回は最終回です。今後あるべき経理組織の体制について取り上げます。
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次回は最終回です。ご期待ください!
第6回 今後あるべき経理組織の体制
プロフィール
元上場企業経理部長
葛西 一成 氏
大学卒業後、通信機器メーカ―、食品やIT系など複数業界の上場企業及び上場子会社経理を経験。 東証プライム・グロース上場企業2社で経理部長を務めた後、独立開業。
現在は、決算業務サポート/会計関連システムの開発導入支援/執筆活動に注力。
X(旧Twitter)では、フォロワー1.7万人超の「経理部IS」アカウント で、経理の仕事ノウハウに ついて情報発信中。
『週刊 経営財務』 にて「経理の1年〈新人編〉」を連載。
著書:『経理のExcelベーシックスキル』中央経済社