帳簿もつけずに 倒産するとは何事か! 厳罰に処す。覚悟せよ。
パンデミックと不況に苦しむフランス。その時、ルイ14世が下した驚きの決断について、歴史学者の礒田道史氏とTKC全国会の坂本会長が語り合いました。
坂本 長引くコロナ禍で、日本中の経営者が苦しんでいます。
先生から何かアドバイスをいただけませんか。
磯田 歴史上、パンデミックは何度も起きていますが、有効なワクチンのなかったスペイン風邪も最長の説で四年で終息とされます。
終わらないパンデミックはありません。
ですから、大変でしょうけれども、コロナ後を見据えて前向きに準備を進めてほしいと思いますね。
坂本 パンデミックといえば、フランス、ルイ14世の時代には天然痘が流行しました。
ルイ14世は太陽王と言われ、フランスをヨーロッパ第一級国に押し上げた方ですけれど、当時は大不況もあって経済がガタつき、夜逃げや倒産が頻発したと言います。
こういう危機的な状況の中で、ルイ14世は財務大臣に「この状態をなんとかせよ。健全な企業経営をさせろ」と命令します。
命令を受けた財務大臣は<倒産防止法>をつくろうと、当時のフランス随一の学者を呼びます。
その学者は、いろいろな研究をした結果、「倒産、破産する人の多くは帳簿もつけず、勘と度胸だけで経営している。帳簿をしっかりとつけ、数字を見て経営している人たちはあまり倒産していない」と気づきます。
そこでその学者は、数字がわかる経営者を増やそうとします。
具体的には<倒産防止法>たる商法の冒頭部分に“記帳義務”を入れたんです。
とはいえ、帳簿が義務化されたところでなかなか守られはしないですよね。
その学者だって、そんなことは百も承知でした。
そこで、厳しい罰則を定めます。
「もしあなたが資金繰りに行き詰まって支払いができなくなったら裁判所に帳簿を持ってきなさい。ちゃんと帳簿がつけてあれば、詐欺破産とせず自己破産させてあげましょう。でも、きちんとした帳簿を持ってこられない者には厳しい処罰が待っていますよ」と。
その処罰というのが・・・・
磯田 あろうことか「死刑」という恐ろしいものでしたね。
坂本 そうなんです。死刑なんです。
でも死刑という厳罰を定めてまで帳簿をつけさせようとしたフランスの決意もまたすさまじいと思うのです。
多分それでフランス経済は立ち直ったのだろうと想像します。
磯田 やりすぎですが、破産時に帳簿を裁判所に示せなかったら死刑、と言われたら、みんなちゃんと帳簿をつけますよね。
誇張ではなく、実際に死刑が執行されていたようですし。
坂本 洋の東西を問わず、帳簿をきちんとつけさせるというのは、古くからの社会課題だったということでしょうかね。
◎本内容は、2021年8月に配信された読売新聞セミナーでの対談内容を再構成したものです。
次回のテーマは、「会計で会社を強くする(最終回)」。どうぞお楽しみに