「租税正義の護持者」としての活躍を税理士に期待
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「租税正義の護持者」としての活躍を税理士に期待

                                                                                とき:令和3年6月23日(水)

中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也氏とTKC全国会坂本孝司会長が約8か月ぶりに再対談を行った。コロナ禍で露呈した日本の課題をはじめ、ワクチン普及によってコロナ禍の収束の兆しが見え始めた状況下での中小企業支援のあり方や、税理士の4大業務の中心をなす会計帳簿の重要性などが語り合われた。野村氏は、租税正義の護持者としての税理士の役割に期待を寄せた。

コロナ禍で顕在化した日本の法制度、デジタル化、縦割り行政などの課題

──今年8月に、TKC全国会は創設50周年を迎えます。これを記念して、昨年10月に続いて、あらためて野村修也先生と坂本会長の対談をさせていただきます。

 坂本 今日はご多忙のところ、ありがとうございます。またお会いできることを楽しみにしておりました。

 野村 TKC全国会創設50周年、おめでとうございます。こちらこそ、意義深い節目となる対談にお招きいただいてとても光栄に感じております。

 坂本 野村先生は、中央大学法科大学院で法律の教鞭を執りながら、弁護士として、また金融行政やさまざまな政府審議会の委員としてご活躍されてきましたが、最近はTV番組にも多数ご出演なさっています。そんな野村先生からご覧になって、最近もっとも気になっているニュースや出来事はなんですか?

 野村 やはり新型コロナウイルスでしょうか。昨年、私は「新型コロナ対応・民間臨時調査会」の委員として日本のコロナ対応を検証しましたが、有事法制の不備やデジタル化の遅れ、縦割り行政の弊害、国と地方の関係など今後日本が取り組むべき課題が浮き彫りになりました。

 坂本 本当にそうですね。このコロナ禍で、中小企業も大きな打撃を受けています。われわれTKC全国会に所属する税理士も、昨年1年間は関与先企業の緊急資金繰り対策の支援に、ここ最近ではいよいよ緊急融資で猶予されていた返済が始まる中で本業の経営改善支援などに全力で取り組んでいるところです。
 2012年に「中小企業経営力強化支援法(現中小企業等経営強化法)」が施行され、税理士等と金融機関が連携して中小企業の経営力を強化する認定経営革新等支援機関(以下、認定支援機関)制度がスタートしました。
 TKC全国会は、当初より認定支援機関として税理士が経営改善支援に取り組むことを重要方針に掲げて取り組んできました。すでにTKC会員事務所による支援の実績は、経営改善計画策定支援事業(405事業)で6,427件、早期経営改善計画策定支援事業(旧プレ405事業、現ポストコロナ持続的発展計画事業)で8,180件(ともに2021年5月末現在)に及んでいます。コロナ禍の収束がまだまだ見えない現下、この認定支援機関制度をもっと社会に知っていただき、活用いただく必要があると思っています。

 野村 そうですね。今のような有時には、中小企業に寄り添った資金調達や経営改善の支援等が極めて重要です。一方で、不正に給付を受けたという残念なニュースもありました。

 坂本 実は、ドイツにも日本の持続化給付金のような制度(コロナ橋渡し給付金制度)があって、その申請手続についてはすべて税理士等が行うことになっています。
 ドイツでも当初、給付手続のための偽サイトによる不正があり、その後、すべての申請手続をデジタルで、かつ税理士等が行うことになりました。この背景には、ドイツ税理士の圧倒的な信用力の高さがあります。
 こうした諸外国の成功事例を取り入れて歴史的な難局を乗り越えていけたら良いと考えています。


殻を打ち破り多彩な能力を発揮して中小企業経営者を支援してほしい

   坂本 野村先生は、1998年に金融監督庁が発足した際に初の民間官僚として参事に就任され、その後、金融庁顧問(金融問題タスクフォース・メンバー)として喫緊の課題でありました不良債権処理にも携わりました。そうしたご経験を踏まえて、コンプライアンスの重要性についてはどうお考えになりますか。

 野村 不良債権に関しては大きく2つのケースがあります。1つは、故意か過失かは別として、借り手企業の帳簿のつけ方がずさんなせいで本来貸してはいけない企業と見抜けず、融資をしてしまい、結果返済されず不良債権となるケース。こうしたケースについては、税理士さんが日頃から企業の経営状態を最も良く知る側の伴走者として会計や決算書をしっかりと指導し、コンプライアンスを高めることができれば解決できます。
 そしてもう1つは、融資を受けたお金をきちんと返済したいのだけれど、不況などに飲み込まれ返済できないというケースです。コロナ禍でこうした事例は今後ますます増えていく可能性があります。
 実は、こちらについても税理士さんにがんばってほしいと私は考えています。経営者のいちばん近くにいるからこそできる親身なアドバイスは、事業の再生に必ず役に立つはずですし、より良い事業承継の時期や方法についてもお手伝いできることでしょう。これからの税理士さんには、記帳代行といった殻に閉じこもるのではなく、まさに中小企業の経営者のパートナーとして幅広い活躍を期待したいと思います。

 坂本 おっしゃる通りです。税理士は、税務の専門家ですが、それだけではありません。私は税理士の役割として「4大業務」があると考えています。4大業務とは〈税務業務・会計業務・保証業務・経営助言業務〉を指します。もちろん、個々の税理士によって提供する業務に濃淡はありますが、正しい「会計帳簿」をベースとして重なっている領域すべてを担うのが、専門家としてのわれわれの役割なのです。

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   野村 これからの税理士さんの仕事が多様性を持ってひろがっていくという坂本会長のお話には深く納得します。私は、多種多様な事柄に高いレベルで対応できる人こそが本物だと考えています。 たとえば、陸上には「十種競技」という種目があります。「100メートル走」、「砲丸投げ」、「走り幅跳び」など十種目の総合成績を競うのですが、十種競技で優勝した選手はキングオブアスリートと呼ばれ、最も尊敬されます。それは、ひとつひとつの競技の記録もさることながら、多種多様な事柄に高いレベルで対応できる人こそが本物だと考えられているからです。

 坂本 わかりやすくご解説いただきありがとうございます。野村先生のたとえでいうと、税理士は「4種競技」を目指すべきですね。

 野村 多種多様な事柄に対応することで、むしろ専門分野を豊かにするなど自分の中で相乗効果が生まれ、これまでの殻を打ち破れます。私自身も商法・会社法という専門分野に軸足を置きながら、「多様な事柄に対応できる専門家」を目指しています。
 税理士さんも税務業務に限らず、多彩な能力を発揮して中小企業経営者の皆さんを支援していただきたいと願っています。


帳簿は経営者自らが活用するもの 正確性の推定には伴走者が必要

   坂本 われわれ税理士の日常業務の中心にあるのが帳簿です。デジタル化が進展する中で、そのことを再認識する必要があると思っています。

 野村 商法でも会社法でも帳簿をつけるのは、商人、つまり経営者自身です。これがしっかり守られることによって帳簿の信頼性は高まるわけですが、加えて皆さんのような専門家が経営者に伴走しながら記帳のプロセスや帳簿をしっかり見ているということが大切だ、と私は考えています。そして、その正確な帳簿や決算書によって、経営者は自社の経営状態を適確に把握した上で打ち手を検討することができ、今般のような有事でもしっかりと対応することができます。それはまさに坂本会長がおっしゃっている「会計で会社を強くする」ことなのだろうと思います。

 坂本 ありがとうございます。本来、仕訳というのは経営者の意思決定であり、それが2重にチェックされていれば、おのずと信頼性は高まるはずですものね。

 野村 夏休みの宿題のように、ある子供は毎日欠かさず絵日記をつけているかもしれないし、ある子供は夏休みの最終日にまとめて書いているのかもしれない。しかし、そのどちらなのかはできあがった絵日記を見ただけでは容易に判断できません。同様に、日々正確に記帳されているかどうかは、TKC会員事務所の皆さんによる巡回監査が行われることによって、信頼性が強化されます。
 私は、帳簿に正確性があるという推定が働くためには、伴走者の存在が必要であり、そこに税理士さんが果たす重要な役割があると思います。

 坂本 手書きで帳簿をつけていた時代は、文字のインクの色が日によって微妙に違ったりして、毎日つけているのか、まとめて記帳しているのかがわかりました。しかし、今は会計ソフトを使うのが当たり前ですから、極端に言えば1年分の請求書や領収書をまとめて入力しても整然と明瞭に電子帳簿ができてしまいます。
 さらに問題なのは、いつでも自由に過去に遡って電子帳簿の訂正や加除がその痕跡を残さず行えてしまうという点です。その結果決算書などの改ざんが容易にできてしまい、歯止めがかかっていないという点が今の日本の法制の現状であり、課題だと捉えています。

 野村 それはゆゆしき問題ですね。そんな現状を食い止めるためにも、税理士さんの仕事はますます重要になりますね。

DX先端国の米国や中国ほか先進国でも電子帳簿のトレーサビリティ確保は常識

 坂本 令和3年度税制改正において電子帳簿保存法(電帳法)の見直しが行われ、「訂正等履歴(トレーサビリティ)」の要件を必要としない電子帳簿を新設する改正が行われました。この動きに対して、TKC全国政経研究会は断固として反対しましたが、残念ながら、かないませんでした。この改悪と言える見直しは、これまでわれわれがその重要性を訴えてきた「帳簿の証拠力」について、わが国の有識者、とりわけ国会議員あるいは関係官庁の方々にまったくといってよいほど理解されていなかったことを意味しています。
 歴史的にみて帳簿の証拠力の前提となる記帳条件の範囲を法で定めてその確保に努めているドイツ等に見られる取り組みは、まさに人類の叡智であるということです。そのことは、いまから50年前に飯塚毅博士がTKC全国会を創設した頃のコンピュータ会計はもとより、クラウド会計が浸透しつつある現代においてますます重要になっています。

 野村 それは、日本において、DX(デジタルトランスフォーメーション)の普及と帳簿の信頼性の問題をどう捉えていくかということになりますね。

 坂本 そうなのです。その中で昨年末、電帳法改悪を阻止するために、株式会社TKCが調査、発表した「世界の会計ソフトの調査結果(中小企業編)」によりますと、世界の主要な会計ソフトで訂正加除履歴を残さない会計ソフト(クラウド会計含)は1つもないことがわかりました。まさにDX最先端国であるアメリカや中国、そしてイギリス、インドで主流として利用されている会計ソフトを調査したところ、そのすべてに訂正加除等の履歴を強制的に残す機能がありました。つまりトレーサビリティを確保するというのは国際的にみて当然のことであり、DXの普及や浸透には、常識であり必要不可欠なルールであることが明白になりました。

 野村 このように法律が帳簿のあり方についてベストプラクティスを要求しない場合、それを補完するルールを上積みする必要があります。
 例えば、会社法を上回る要求を、法律ではなくコーポレートガバナンス・コードといったソフトローで補完しているのと同じ仕組みです。

 坂本 そのためにも私どもは、トレーサビリティが確保されたいわゆる「優良な電子帳簿」を圧倒的に拡大することによって、中小企業が税務当局からも金融機関からも信頼される環境を作る運動に全力を注ぐつもりです。

 野村 それは素晴らしいですね。「優良な電子帳簿」を金融機関に提出することがよい融資を引き出す条件になるような状況を作り出せれば、世の中が一変するのではないかと思います。

 坂本 いずれにしましても、日本がデジタル化を本格的に推し進めていくにあたっては、欧米のように会計データを加除訂正したら必ず痕跡が残る仕組みを定着していくことが喫緊の課題です。トレーサビリティを確保することにより、帳簿の証拠力を高めて健全な納税者を守ることが可能となります。それが税理士の使命である納税義務の適正な実現を図ることにつながります。同時に、経営者が正確に記帳された帳簿を作成し活用することで会社の業績管理が向上し、黒字決算につながっていきます。TKC全国会はこれからもその結成時から掲げている社会と企業の発展への貢献と、租税正義の実現、すなわち黒字決算の支援と適正申告の実現に向けて引き続き取り組んでまいります。

 野村 TKC全国会の皆さんには、納税者のためにも高潔な理想を持つ、「租税正義の護持者」として今後とも第一線で活躍していただきたいと思います。

 坂本 ご期待に沿えるようがんばります。本日はありがとうございました。


野村修也(のむら・しゅうや)氏                                                                   中央大学法科大学院教授・弁護士。1962年生まれ。北海道函館市出身。専門は商法・会社法・金融法。法制審議会や金融審議会等を通じて各種立法に関与。金融監督庁参事、金融庁顧問、総務省顧問、郵政民営化委員、東京都参与、司法試験考査委員、法制審議会委員などを歴任。年金記録問題の検証委員を務めたほか、福島第一原発事故の際には国会事故調査委員会の委員(主査)として報告書のとりまとめに尽力した。

                                                            (会報『TKC』令和3年8月号より転載)

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