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黒字を積み重ね自己資本比率71%超え! 経営者保証なしの融資が可能に

「TKC経営指標」の膨大な中小企業の財務データからあぶりだされた「優良企業」を紹介するシリーズ『優良企業の流儀』。
第3弾では、4月22日にBS11特別番組『ドキュメント戦略経営者 未来を切り拓くー経営者と税理士の挑戦ー』に出演された、自転車用ベルでシェアトップの東京ベル製作所(東京都)が『戦略経営者』2023年6月号で紹介されました。

左から野口省吾先生、市村晃一社長、来嶋宏扶氏

【税理士法人ガイア × 東京ベル製作所】

 東京ベル製作所は、自転車用ベルやディスプレー器具の製造を手掛けるメーカーである。開発力と多品種少量短納期への対応力が強みで、自転車やアウトドア分野でこれまでコンスタントに新商品を世に送り出してきた。

 今年3月のある日、同社の市村晃一社長のもとを税理士法人ガイアの野口省吾税理士、同北支社監査部1部門の来嶋宏扶シニアマネージャーが訪れた。恒例の月次巡回監査である。

 「2月の数字がまとまりましたので損益計算書から説明させていただきます。まず売り上げはディスプレー器具製品が○○万円、ベル製品が○○万円......」
 来嶋シニアマネージャーが滑らかな口調で説明を始める。仕入れ価格や外注加工費の前年同月、同年前月との比較、変動費率の水準をどう評価するか、人件費を含めた固定費の確認――。変動損益計算書を上から順番に読み、目標値に定めている限界利益率との比較や経常利益の水準を確認する。

 一通り数字のチェックを終えた後は、前年同月などとの比較で差異が目立つ部分についてのディスカッションだ。この日は輸出部門の成績についてまずは時間が割かれた。市村社長が口火を切る。

 「コロナの影響で自転車関連部品の需要が欧米で高まり、当社のベルも大きく売り上げを伸ばしました。しかしここにきて在庫がいっぱいになってしまったようで、受注が減っています。ウクライナ戦争や為替の影響はあまりありませんが、厳しい状況が続いています」
 物価高が進んでいる欧米市場では、同社のベル製品は国内よりも好条件で販売できる。輸送費を計算に入れても国内より利益率が良くなるという。市村社長の発言は輸出部門の需要が一巡してしまっているとの問題提起だった。

 野口税理士からは、原材料価格の上昇を製品価格に転嫁できているかについて質問が飛んだ。再び市村社長。

 「原材料価格の値上げに応じてその都度価格交渉するのは現実的ではないので、ある程度まとめて値上げのお願いをしています。こういうご時世なのでお客さまもたいてい理解していただいています」
 野口税理士が安どの表情を浮かべ議論がひと段落すると、市村社長が「ちょっと見せたいものがある」と社長室に行って戻ってきた。切り込みの入った金属製の板のようなものである。

 「これはコーヒードリッパースタンドです。アウトドアシーンでコーヒーを楽しむためのアイテムとして開発しました。このスタンドをカップの上に載せ、フィルターを入れればどこでもドリップコーヒーを楽しむことができます。組み立て式なので使い終わったら解体でき場所をとりません」
 興味津々の2人は手に取って製品の感触を確かめる。その後も販売方法や宣伝手法について活発な意見交換が続いた。

■金融機関からも高い評価

 このような月次巡回監査の光景は、同社ではすでに日常となっている。それが確実に行われてきた証しが、「記帳適時性証明書」だ。野口税理士がその特徴について語る。

 「3年間で1回も月次巡回監査を実施しなかった月はないという証明です。自計化や書面添付の実践、翌月の巡回監査などの項目を順守した場合はチェック欄に2重丸をつけることができ、すべて2重丸がついた場合は、金利を低くした金融商品を提供している銀行もあります」
 同社はさらに月次決算終了後に試算表のデータを自動送信する「TKCモニタリング情報サービス」も活用。信頼性の高い月次試算表を確認できると金融機関から高い評価を得ているという。同サービスにより毎月試算表を受け取っている朝日信用金庫西尾久支店の小和板祐二さんはいう。

 「毎月自動で試算表をお送りいただいているので、実際に融資等の相談を受けた時は、市村社長に提出をお願いする資料が少なくて済みます。急な資金需要が生じた場合でも、スピード感をもってさまざまなご提案ができます」
 朝日信金では、同社が緻密な財務管理体制により、資産の所有や資金のやりとりについて法人と経営者が明確に分離されている、適時適切に財務情報が開示されている、法人のみの資産や収益力で返済が可能である――といった「経営者保証ガイドライン」の3要件を満たすと判断し、4月以降は市村社長の個人保証なしで融資を行うことを決めた。かつて金融機関に勤務し、今は融資を受ける経営者の立場にいる市村社長は、このことの意味を十分理解している。

 「借り入れの際、保証人の欄にサインをするときの緊張感はかなりのものです。そのプレッシャーとストレスから解放されるのは気分的に随分楽になると思います。5代目、6代目と会社を継ぐ人のためにもとても意義のあることだと考えています」

■国内外で「チビ丸」が大ヒット

 自転車メーカーのベル部門が独立し東京ベル製作所が設立されたのは戦後まもない1949年。以来4代目となる市村社長まで、同社は数々の困難を乗り越え事業を継続してきた。大学卒業後に金融機関に就職した市村社長は、当初は家業を継ぐ気がなかったという。

 「ある日父から『メインのお客さんから“お宅のお子さんはいつ会社に入るの”と聞かれたよ』と言われたのです。そこではじめて自分が一生を賭ける仕事は何かを真剣に考えました。金融機関の仕事はとにかく忙しくて休みもとれないほど。動かしているのはお金だけで、物足りなさも感じていました。その点東京ベル製作所はものづくり企業なので必ず製品が残ります。1年くらい悩みましたが、最終的に会社を継ぐことに決めました」
 こうして一大決心の末27歳で入社した市村社長だが、実は社会人2年目の時に同社が増資した際に出資をしていた。株主として決算書を毎年確認していたのである。

 「職業柄決算書の大体の見方は分かっていたので、当社の業績は悪くないということも分かっていました。自転車のベル以外の金属加工の仕事が大きく伸びるなど業種転換に成功していたのです」
 メイン事業だった自転車用ベルは中国製品に押され売り上げは落ちつつあったが、POPをクリップにとめてつり下げる「スタンドポップ」に代表されるさまざまな種類のディスプレー器具の製造が新たな稼ぎ頭になっていた。社屋をリニューアルした1990年前後から、スーパーマーケットなどでの需要が拡大し、受注が一挙に伸びていたのである。

 一方自転車用ベルも、オリジナル商品の開発強化が実を結んでいた。最初期のヒット商品「チビ丸ベル」の誕生である。ウイスキーボトルのふたの形状から着想を得て開発した商品で、従来のベルに比べ大幅な小型化を実現。位置の調整が360度可能なことなどが評価され国内外でヒットした。

 チビ丸のヒットは業界に大きなインパクトを与え、それ以降スポーツタイプの自転車では、歯車が内蔵され「ジリジリ」と鳴るそれまでのタイプではなく、ばねを使って金属を打って「チーン」と鳴らす「チビ丸」タイプのベルが主流になったという。

■アウトドア市場参入が転機

 市村社長の入社後にはアウトドア市場へも参入した。商品はクマよけの「森の鈴」。自転車ベルの製造で蓄積されたノウハウを横展開した。

 「『自転車のベルをつくっているならクマよけのベルもつくれるのでは』と持ち掛けられたのがきっかけです。オン、オフ機能をつけた試作品を登山用品店に持っていったら『これはなかなかいいから、卸売会社を紹介するよ』と取引先を紹介してもらい、販売がはじまりました。山登りブームにうまく乗って開発ができたと思います」
 この「森の鈴」でアウトドア市場をこじ開けたことが、後のコーヒードリップスタンドの開発に結実する。市場の変化に対応し、新規分野への進出やオリジナル製品の強化を図ってきた東京ベル製作所。これまでコツコツと黒字を継続した結果、事業承継をした時点ですでに50パーセントを上回っていた自己資本比率は、直近で71パーセントを超えた。

 「自己資本比率が高いのはあくまでも結果でしかありません。時代の変化に適応しながら黒字決算を続けてきたこと、それに尽きると思います。会社の永続的な存続を考えると、黒字を出してしっかり税金を納め、自己資本を充実させていくのは経営の基本。そのうえでさらに自社製品の比率を上げ、アウトドア分野でも『東京ベルブランド』を確立し、次代の社長に安心してバトンタッチできるような会社にしたいですね」
 「現状維持は衰退と同じ意味」と語る市村社長の挑戦はこれからも続く。

4月22日に放映されましたBS11特別番組「ドキュメント戦略経営者 未来を切り拓く-経営者と税理士の挑戦」の動画が以下のURLから視聴可能です。
https://www.tkc.jp/tkcnf/movie/bs11_senkei/


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