第4回 人材育成と経理部員にお薦めの勉強法
はじめに
TKC「決算・申告応援マガジン」 でコラムを担当している、IS経理事務所代表の葛西一成です。
上場企業2社で経理部長を務めた経験をもとに、事業会社の経理パーソンに役立つ情報を提供してまいります。
経理人材の育成で難しいのが、実務に対応できる人材をどうやって育てるかです。経理に必要な会計や税務の知識は、資格の勉強や書籍などで一定程度の身に付けることができます。
しかし、実際の実務をこなすためには、それらの知識だけでは足りず、自社におけるシステムの使い方や運用ルールなどの理解が必要となります。
そこで今回は、経理実務の中でも法人税計算の業務を例に、実務をこなすための勉強法を解説します。
経理の人材育成のための方法として、また経理パーソン自身のスキルアップのために活用していただけたらと思います。
1.実務で使える外部オンラインセミナーの活用
今回は、法人税計算を例に、実務で使えるスキルを身に付けるための事例を解説していきます。
スキルを身に付けるために活用したいのが外部のオンラインセミナーです。外部セミナーといえば、これまではセミナー会場へ行き対面で受講するものが一般的でした。
しかし、コロナ禍をきっかけに、オンラインでのセミナーが一気に普及し、今までにはないより実務的なセミナーも増えています。
例えば、次のような法人税の申告書を作成することに特化したオンラインの実務セミナーもあります。
事例:TKC税務・会計基礎講座―法人税申告書の作成演習
・まずは法人税申告書の作成の流れを理解
・次に法人税・地方税の計算の流れ、別表四・別表五(一)の仕組みと他
別表との関連を知る
・さらに申告書作成演習を実施することで、法人税の計算方法のロジックが
理解できるようになる
これまで法人税の計算を学ぶには、書籍での学習が中心でした。対面セミナーなどもありましたが、受講時には内容を理解できても、その後の復習することが難しいというデメリットがありました。
しかし、オンラインセミナーであれば、自分のペースで進められ、何度も視聴できるため、より効果的な学習が可能です。
さらに、上記のように実践的な演習を含むセミナーも増えており、実務スキルを身に付けるのに役立ちます。
今後は、こうした実務スキルを習得できるセミナーを活用し、より効果的な経理の人材育成を行うことが求められます。
2.具体的な実務の勉強事例
上述したオンラインセミナーなどを活用し、基本的な知識を身に付けたら、次は実際の作業を経験してみるのが、実務スキルを身に付ける一番の近道です。
ここでは、法人税計算・申告書の作成を例に、実務作業の勉強法について解説します。
Step1:事前準備
・自社の前期の法人税申告書を準備する
・自社で利用している法人税申告ソフトを準備する
ここでは、過去の法人税申告書を準備し、これを再現することを目指します。この再現により、実際の法人税計算・申告書作成を体験します。
また実務では申告ソフトを利用するのが一般的であるため、自社で利用しているソフトも準備します(ソフトでは、テスト用のデータを作成し、そのデータで過去の申告書作成を再現します)。
Step2:課税所得計算を再現
・前期の自社の申告書別表4から「加算」「減算」項目を洗い出す
・「加算」「減算」項目の内容を調査する
・課税所得計算を再現する
課税所得計算では、自社の申告書において、どのような加算減算項目があるのかを確認し、調整が必要な理由を理解します。
これにより、自社における特有の税務調整を知ることができます。また、加算減算項目の金額がどのように集計されているのか、算出根拠となる帳票類も確認し、法人税の計算で必要な作業も把握していきます。
そして、調整内容が理解できたら、実際に税引前当期純利益から課税所得を計算してみます。この課税所得の計算は、Excelなどのスプレッドシートを活用して、実際に手を動かしながら再現してみると理解が早まります。
Step3:申告書の再現
・申告ソフトに加算減算項目を入力する
・別表間の数値の整合性をチェックする
・昨年度の申告書と再現した申告書を比較する
ここでは、実際に自社で利用している申告ソフトを使って、前期の申告書再現してみます。
これにより、申告書の別表間の数値がどう連携しているのか関係性が理解できるようになります。
また課税所得から税額を求める流れを追うことで、どのように税額が計算されるのかその仕組みが理解できるようになります。
最後に、昨年度に提出した申告書と、自分が再現してみた申告書を比較することで、作成時のミスやあるべき申告書の作成方法がわかるようになります。
このように、実際に行われる課税所得計算から申告書作成までを自分なりに再現してみることで、計算の根拠となる帳票類や具体的な作業方法がわかるようになり、より効果的に法人税申告の実務能力を向上させることができます。
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まとめ
今回は、経理人材の育成方法と具体的な実務の学習方法について解説しました。
経理実務は、すぐに理解することは難しく、また決まった勉強方法は確立されていません。
しかし、最近は実務に特化した外部のオンラインセミナーが充実しています。そういったセミナーを活用して育成し、さらに実務に即した勉強法により学習を進めることで、実務をこなすためのスキルを身に付けることができます。
特に重要なのは、単に知識を詰め込むのではなく、実務との関連性を常に意識しながらの人材育成です。
本コラムで紹介した学習方法を参考に、経理人材の育成と実務スキルの向上にお役立ていただければ幸いです。
今後も、経理実務における課題と解決策について取り上げていきます。
引き続き次回以降のコラムもお楽しみください。
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第5回 人材採用と人材募集にあたり必要な業務環境
第6回 今後あるべき経理組織の体制
プロフィール
元上場企業経理部長
葛西 一成 氏
大学卒業後、通信機器メーカ―、食品やIT系など複数業界の上場企業及び上場子会社経理を経験。 東証プライム・グロース上場企業2社で経理部長を務めた後、独立開業。 現在は、決算業務サポート/会計関連システムの開発導入支援/執筆活動に注力。
X(旧Twitter)では、フォロワー1.7万人超の「経理部IS」アカウント で、経理の仕事ノウハウに ついて情報発信中。
『週刊 経営財務』 にて「経理の1年〈新人編〉」を連載。
著書:『経理のExcelベーシックスキル』中央経済社