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会計事務所と作った「7つのルール」と新規事業への参入で連続増益を実現

「365日変動損益計算書」を活用している優良企業として、
ステラ金属(岐阜県)と植木石材店(兵庫県)が『戦略経営者』2022年11月号で紹介されました。
この2社は、2022年9月26日にBSイレブンで放送された『ドキュメント 戦略経営者 未来を切り拓く―経営者と税理士の挑戦』にも出演。
TKC会員の指導のもと、変動損益計算書に基づく緻密な業績管理を実践する中小企業経営者の姿に注目が集まりました。

左から植木陽子氏、植木政夫社長、 川原愛子監査担当、稲田実税理士

【税理士法人稲田会計 × 植木石材店】

 兵庫県宍粟(しそう)市に本社を置き、地域密着型で墓石の製造販売を手掛ける植木石材店。物心ついた頃から「家業を継ぐ」ことが当然だと考えていた植木政夫社長は、高校卒業後に愛知県岡崎市の石材店に就職、4年間で石材ビジネスのイロハを学び、ふるさとに帰り植木石材店に就職した。当時は墓石ビジネスに大きな変化が起きていたと振り返る。

 「私が植木石材店に就職した時は、内地材と呼ばれる国産の石を加工した墓石の販売にこだわっていました。ところが数年後に安価な中国産の原材料が入ってくるようになったのです。安くて石の質もそれほど悪くないとなると、お客さんはやはり安い方を選ぶようになりました」

 複雑な加工を施すことで付加価値を付けて低価格競争に巻き込まれないようにしていたが、次第に中国で生産・加工を行う製品が出回り始めた。先代社長は最後まで国産にこだわっていたが、低価格攻勢に太刀打ちできなくなり、中国産石材をメインにせざるを得なくなったという。

 このように事業環境が大きく変わるなか、2代目として社長に就任したのが2015年のこと。植木社長は事業承継をきっかけに本格的に経営の基礎を学ぼうと、税理士法人稲田会計の稲田実税理士が主催する「経営塾」に参加した。この経験が大きな意識の変革を植木社長にもたらした。

 「それまで職人として働いてきたので、経営というものをまったく理解できていなかったことを思い知らされました。父親から経営について教えてもらったことも、原価計算をきちんとしたこともありませんでした。つまりどんぶり勘定だったのです」

月次巡回監査の仕組みに驚く

 同社は経営塾に参加する以前から稲田会計と顧問契約を結んでおり、2012年にTKCの『FX2』を導入していた。まず驚いたのは、月次巡回監査の仕組みである。

 「以前契約していた会計事務所では、先生にお会いするのは決算報告時の1回だけ。決算書を見ながら『売り上げも減り利益も出ていませんね。もうちょっと頑張ってください』と声をかけられる程度で、どこをどのように頑張ればよいのか分かりませんでした。ところがTKC方式では、毎月来られて業績の分析と経営のアドバイスをしていただけます。経営塾で学んだ財務の知識を、実際に業務を行うなかで理解できるようになりました。改善しなければならない部分を月単位でチェックできるのは大きな変化でした」

 変化は経理担当の植木陽子氏もすぐに実感した。以前はエクセルで自作した複数の帳表を毎月会計事務所に送っていたが、自計化によりそうした手間がなくなり業務負担の軽減につながったという。経費の増減や資金繰りに対する感度も増した。

 「月々の動向に敏感になるため、必要ではない消耗品を大量に購入して無駄にしてしまうことのないよう今まで以上に注意するようになりました。またそれぞれの支払いの期日を正確に管理できるので、資金繰りについても適切に対応できるようになりました。正直、以前は年に1度、決算書を確認するだけだったので、書いてある数字は何がなんだかさっぱりわかりませんでした。もうかっているのかいないのか、わからない状態で仕事を続けていたといっても過言ではありません。しかし今は月次巡回監査で詳細に業績を確認するようになり、『会社らしくなった』と実感しています」

限界利益率を常に意識

 こうして植木社長は、《変動損益計算書》を定期的にチェックし、売り上げと固定費のバランス、つまり限界利益率を常に意識するようになる。売上高をすぐに伸ばすのは困難なので、まず固定費の見直しに着手した。本社工場を含め2カ所ある製造拠点の集約化を図り電気代などを節約。さらに「もうかっていないのにこれまでと同じ給料をもらうことはできない」と役員報酬にも手を入れた。稲田税理士は、植木社長が経営者として着実にステップアップしていった過程についてこう振り返る。

 「当時の植木石材店は、借入金が年商と同規模の額に達し、植木社長は資金繰りに困っている様子でした。そこで私たちは、売掛金が長期にわたり残っているケースがが多かったことに着目し、『集金を徹底したらどうですか』と話したのです。植木社長は職人気質で周囲への配慮を欠かさない人柄ですから、どうしても『困っているのなら待ちましょう』となってしまいます。ところがそれでは資金繰りがうまくいきません。そこで場合によっては契約時に手付金をいただいたり、長期の工事では進捗(しんちょく)に応じて数回に分けて入金してもらったりなど入金ルールを会社としてきちんとつくりましょうと提案しました」

 こうしたやり取りを通じ、同社には次々と新たなルールが作られていった。月次巡回監査を担当する稲田会計監査課の川原愛子氏はいう。

 「見積もりの依頼があっても、以前は提出するまでにかなり時間がかかってしまうことがありました。植木社長は3DCADを使いながら一つ一つ丁寧に見積もりを作成していたので仕方のない部分もありましたが、『1週間以内』という期限を設けることにしました」

 植木石材店と稲田会計の二人三脚の取り組みで、このほか「請求書は工事完成後すみやかに提出する」「寺院などへの営業活動(毎月訪問)」「休眠工場の今後の検討」「現場ごとの原価率把握」を合わせた「7つのルール」(稲田税理士)を常に意識するようになったのである。

地域密着型の経営方針を堅持

 2017年1月、経営塾を卒業した植木社長は、今後の事業計画を立案した。柱は2つである。

 「まず利便性の高い場所に墓地を確保する取り組みです。このあたりの地域では人里離れた見晴らしの良い高台にお墓が点在しています。しかし急な坂道を上るので草刈りなどの管理が大変で、高齢者など足腰の弱い方のお参りも年々難しくなってきていました。そこで道路から近い平地に墓地を新設する取り組みを寺院などと共同で進める計画を立てました」

 2番目は土木、建築分野への進出だ。墓地の販売では例年12~3月の冬季は受注が少なく、工場の手直しなど直接利益には結びつかない作業を行うことが多かった。この閑散期対策の一つとして公共工事や外溝・エクステリア工事への参入を計画したのである。

 「有資格者を新規に雇用し、建築土木分野の仕事も積極的に手がけるようになりました。通常土木工事では大きな重機を使いますが、当社が保有している重機は墓石の設置などで使う小型のもの。大型の重機が入れない狭い場所でも施工できるという利点を生かせばチャンスがあると考えたのです」

 この決断に至るまでは迷いはあった。同社が営業を展開するエリアは中山間部で過疎化が進展している地域。人口減少にともない墓石の新規ニーズは減少の一途をたどっていたが、都市部に市場を求め営業エリアを拡大するという手もあったからだ。しかし最終的に植木社長はあくまでも地域密着の事業展開を選んだ。「田んぼの溝が崩れた、庭の石垣が壊れたといった地域住民の困りごとを解決し喜んでもらえるような仕事をしていきたい」と考えたからである。

 《変動損益計算書》の理解に基づいた経営分析に新規事業への取り組みも加えた植木石材店。徐々に経営は上向きになっていく。稲田税理士はその成果について次のように語る。

 「経営塾に参加されていたときの業績が底でした。しかし卒業した翌年の18年7月期に増益増収に転換し、その後21年7月期まで4年連続で増益を達成されています。とくに墓石以外の新規事業の売上高が全体の4割を超えるまでになっています。墓石の売り上げは全盛期に比べ落ち込んでいるので、新規事業にチャレンジしていなかったら大変なことになっていたと思います」

 1年前から植木石材店のメンバーに、元気あふれる青年が加わった。後継者として入社した植木社長の長男、植木芳匤氏である。事業承継の道筋をしっかりと作っていくのも植木社長の今後の大切な仕事の一つだろう。地域に欠かせない長寿企業へ向けた階段を一歩一歩着実に上りつつある。

2022年9月26日に放映されましたBS11特別番組「ドキュメント戦略経営者 未来を切り拓く-経営者と税理士の挑戦」の動画が以下のURLから視聴可能です。
https://www.tkc.jp/tkcnf/movie/bs11_senkei/


TKC「会計で会社を強くする」