第1回 経理部門における重点テーマ ー経理人材の育成ー
はじめに
今回より中堅・大企業の経理担当者のための「決算・申告応援マガジン」 でコラムを担当することになりました、IS経理事務所代表の葛西一成です。
上場企業2社で経理部長を務めた経験をもとに、事業会社の経理パーソンに役立つ情報を提供してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
経理部門における重点テーマ
経理部門における重点テーマは毎年変わります。
例えば2024年度では、上場企業経理における四半期開示制度の見直しや、
グローバルミニマム課税といった税務の実務対応が注目されています。
しかし、毎年変わらず継続して重点テーマとされているものがあります。
それが「経理人材の育成」です。このテーマはどの企業でも常に重視され、簡単には解決できない課題として認識されています。
そこで今回は、この「経理人材の育成」について解説します。
経理人材の育成
昨今、あらゆる分野において人手不足が深刻化していますが、経理職も例外ではありません。
筆者は決算サポートなどで企業の経理担当者と多く接しており、「即戦力となる経理人材を紹介してほしい」という依頼をよく受けます。
実際、経理の専門性はますます高まっており、簿記の知識だけでは実務をこなすのが難しくなっています。そのため、実務経験を持つ即戦力を採用したいと考える企業が多いのですが、そのような人材は限られており、採用は難航しています。
そこで、未経験者や若手経理パーソンを育成し、戦力として活用しなければならないのですが、その育成も難しい状況にあります。
経理業務の範囲は多岐にわたり、日次の取引仕訳の起票から、経費精算業務、債権債務の管理、月次決算対応などやるべきことは多くあります。
さらに上場企業グループであれば、会計基準や税法の理解を深め、専門性が高い決算開示業務の対応も求められます。
しかし、こうした経理業務の経験やスキルは短期間で身につけることができず、中長期的な視点での育成が必要です。
加えて、育成のノウハウが不足していたり、育成を担う上司や担当者が常に忙しい状態であることが、経理人材の育成をより難しくしています。
●育成がうまくいかない理由:事例
・長期的な視点を持った育成プログラムがない
・部下の自主性に任せた教育
・育成を担当するベテラン経理メンバーのリソース不足
・短期目線で行われる業績評価、目標管理
・経理に求められるITスキルを身につける方法が確立されていない
こうした状況を放置していると、一部のベテラン経理パーソンに仕事が集中し、業務の偏りや属人化が発生します。結果的に経理部門全体の効率が上がらず、むしろ下がってしまいます。
さらに、十分な会計税務の知識を持つ人材を育成できなかったことが原因で、決算開示の遅れや処理の誤りが発生することもあります。
経理人材の育成といっても簡単にできるものではありませんが、まずは自社の経理の育成状況を見直し、育成がうまく行われていない場合は、その理由を深堀りしてみるところから始めるべきです。
そして、具体的な解決策を検討し、新たな育成方法を取り入れていきます。
●自社における育成の課題と解決策:事例
【課題】
・短期目線で行われる業績評価、目標管理により、すぐに達成できるような
目標が設定されてしまう。これにより、専門性を高める中長期的な目標達
成を目指そうとしなくなる。
【解決策】
・上期・下期といった短期目標のほか、別途中長期目標も設定し、その目標
達成のための取り組みも評価対象とし、中長期にわたって育成を行う。
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このコラムでは、今後もこうした経理人材の育成や、経理実務における課題と解決策についても取り上げていきます。引き続き次回以降のコラムもお楽しみください。
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この連載コラムの次回以降は下記テーマを予定しています!
ご期待ください。
第2回 経理業務の属人化と業務標準化の必要性
第3回 人手不足が進む中で今後予測される業務課題
第4回 人材育成と経理部員にお薦めの勉強法
第5回 人材採用と人材募集にあたり必要な業務環境
第6回 今後あるべき経理組織の体制
プロフィール
元上場企業経理部長
葛西 一成 氏
大学卒業後、通信機器メーカ―、食品やIT系など複数業界の上場企業及び上場子会社経理を経験。 東証プライム・グロース上場企業2社で経理部長を務めた後、独立開業。 現在は、経理パーソン向けキャリアサポート/会計関連システムの開発導入支援/執筆活動に注力。 X(旧Twitter)では、フォロワー1.5万人超の「経理部IS」アカウント で、経理の仕事ノウハウに ついて情報発信中。
著書:『経理のExcelベーシックスキル』中央経済社