什器製造への進出と緻密な業績管理でひときわ"光り輝く"会社へ
【税理士法人タスクマネジメント × ステラ金属】
東海道新幹線の岐阜羽島駅から車でおよそ10分。岐阜の伝統行事である「鵜(う)飼い」で有名な長良川のほど近くに、ステラ金属の本社工場がある。
主力製品は店舗向けの陳列什器(じゅうき)で、これまでに手がけてきたアイテムは3,000種類超。「当社の強みは素材の調達から製造加工、組み立て、梱包(こんぽう)、出荷まですべて自前で行う『一貫生産体制』を敷いていることです」と説明する佐々木貴社長の周りには、レーザー加工機や溶接機といった高性能の機械が所狭しと並んでいる。
工場に続いて案内されたのが1階にある社長室。「これを見てください」と佐々木社長に促されると、「数字」がびっしりと書き込まれたホワイトボードが目に飛び込んできた。決算時点での損益分岐点売上高(過去7期分)と営業担当者ごとの月次の受注実績で、それぞれ佐々木社長が手書きしたものだ。
「当社は杉山美智晴先生(税理士法人タスクマネジメント)が顧問に就いて以降、『FX2』による月次決算を徹底しています。これにより自社の経営状態が手に取るように分かり、将来の予測を立てることはもちろん意思決定もスピーディーに下せるようになりました。さらに、担当者別の月間の売り上げを逐一ホワイトボードに記録するなど、月次決算の考え方を営業管理にも横展開しています。こうすることで担当者ごとの進捗(しんちょく)を可視化。おのおのが抱える課題の早期発見や成功事例の共有などを通じて社員の生産性アップにつなげています」(佐々木社長)
ちなみにステラ金属の損益分岐点売上高は年々減少傾向にあるが、これは売り上げが小さくても黒字化できることを表している。
「特に注目しているのが経常利益の推移です。この数字が良いと『これまでの戦略は間違ってなかった』と自信につながり、『この方向性で業績を伸ばしていこう』と素早く判断することができます」と佐々木社長は月次決算の効果を肌で感じているようだ。
とはいえ、なぜ佐々木社長はここまで緻密な業績管理を徹底しているのか。これを説明するには、まずステラ金属の歩みを追う必要があるだろう。
新規事業で起死回生
もともとは荷かごや子供用の座席といった自転車部品の製造をなりわいとしてきたステラ金属。地域に密着した中小企業として真摯(しんし)にものづくりに励んできたものの、バブル崩壊のあおりを受け業績が急降下。海外から安価な自転車部品が続々と輸入されたことも重なり、赤字経営に拍車がかかった。佐々木社長が当時勤めていた会社を辞め、実家に戻ってきた頃にはすでに倒産寸前の窮地に立たされていたのである。
「当時は会社が火の車で、『御社は破綻懸念先です』と銀行の営業担当から面と向かって言われるくらい苦しい状況だったんです。毎月のように手形の決済に追われ、親戚や取引先に頭を下げては運転資金を工面していましたが一向に収拾がつかず、『夜逃げするしかない……』と思いつめたこともありました」(佐々木社長)
そんな佐々木社長に転機が訪れる。1994年、ある大手スーパーマーケットから「ディスプレー用のラックを作れないか」という依頼が舞い込んだのである。
これが起死回生の一手となった。長年培ってきたスチール加工の技術を生かし、月に3~5アイテムをリリースするなど新製品を積極的に展開したところ、多彩なラインアップや短納期での製作が評判を呼び、瞬く間に引き合いが相次ぐようになる。今では大手アパレルショップや全国展開のディスカウントストアなど錚々(そうそう)たる企業が納品先として名を連ねる。
「オファーをいただいたときは、『ぜひ作らせてください』と二つ返事で引き受けました。1年目は月70万円ほどの売り上げでしたが、2年目には1,000万円近くまで拡大し、その後数年で赤字を脱することができました」と佐々木社長は当時を振り返る。
「会計」を頼りに投資を判断
店舗什器の製造販売が軌道に乗り、業績も回復基調に転じつつあった同社に強力なサポーターが加わる。杉山税理士である。先代であり佐々木社長の父である章氏の"たってのお願い"で顧問契約を結ぶと、早速『FX2』の利用を提案。自計化(会計ソフトを導入して自社で経理を行うこと)と月次決算ができるよう経理体制の再構築に着手した。
「経営の状況を適時、正確につかむためにも『毎日しっかりと正確に記帳してほしい』と社長にお伝えしました。自ら帳簿を作れば最新業績を即座に把握でき、経営改善に向けた戦略をスピーディーに組み立てることができますからね」と杉山税理士。
こうして日々の会計処理と業績管理を徹底するようになったステラ金属。監査担当の長田雅邦氏が毎月訪問し、帳表や証憑(しょうひょう)書類をチェック。その後社長と経理担当の純子さん(社長夫人)と3名で業績検討を行うのが毎月のルーティンとなっている。
そこで俎上(そじょう)に上るのが「設備投資」だ。多様化する顧客のニーズに対応するため、ステラ金属では10年ほど前から最新鋭の機械設備を相次いで導入。その意思決定を、《変動損益計算書》を活用して行っている。
佐々木社長は言う。
「財務状況をタイムリーに把握することで向こう半年から1年の見通しが立ち、『新しい設備を導入するためにどれくらいの予算を投下できるか』といった判断が的確にできています」
値上げ対応に素早い一手
《変動損益計算書》による業績管理は値上げラッシュへの迅速な対応も後押しした。昨今の原料高がステラ金属にも直撃するなか、佐々木社長は最新業績をこまめにチェックし材料費が上昇傾向にあることを素早く察知。「昨年あたりから仕入れ価格が上がる一方だったので『これは値上げするしかない』と売価を改定しました。今年の6月以降に本格的に値上げへとかじを切ったこともあり、徐々に限界利益率が上向きつつあります」と佐々木社長は続ける。
ちなみに近年の売上高は10億円程度とほぼ横ばいだが、一貫生産体制の確立によって外注費の削減に成功。限界利益も拡大し、さらなる設備投資や賞与を年3回支給するなど好循環も生まれている。
「店舗什器の製造販売とTKC方式の自計化の合わせ技で、今ではすっかり見違えるほど利益体質の会社に成長しました。書面添付(※)も17年連続して実践するなど、記帳や納税もきっちり行われています」(杉山税理士)
最近ではコロナ禍によるインターネット通販のニーズに対応するべくEC事業部を設立。一般家庭向けのインテリア製品の開発に取り組むなど佐々木社長は販路拡大にさらなる意欲をのぞかせる。
「社名の由来である『ステラ』は英語で『星の光』を意味します。技術力を生かした製品開発と緻密な業績管理を武器に、業界でひときわ"光り輝く会社"を目指していきたい」と将来を見据える佐々木社長のまなざしは力強い。
※書面添付制度(税理士法第33条の2)
申告書作成のプロセスにおいて、計算、整理、相談に応じた事項を明らかにした書面を申告書に添付し、税務の専門家である税理士が、その申告が誠実に行われていることを示す制度。この書面添付を行うことで、顧問税理士が税務署から意見聴取を受けた上で企業への税務調査が省略されることがある。