はるか500年も昔、 イタリアで語られた商売繁盛の秘訣とは。
「会計で会社を強くする」とは?そのための税理士の役割とは?歴史学者の礒田道史氏とTKC全国会の坂本会長が語り合いました。
磯田 坂本会長は常々「会計で会社を強くする」ということを言われていますが、その際の税理士の役割についてどうお考えですか。
坂本 税理士の仕事は税務申告の代行が主で、経営や会計の相談についてはちょっと違うのではと言われることもありますが、それは誤解です。
また、企業経営者には税務署の調査が怖いから仕方なく帳簿をつけるんだ、という感覚があるようですが、こうした受け止め方にも首を傾げます。
帳簿をつけるというのは義務ではありますが、「帳簿は経営に不可欠なツールであり、会社を強くするためのヒントが詰まっているものである」とこれまで以上に税理士が発信していく必要があると思っています。
磯田 そういえば、ルイ14世の時代のフランスは「倒産防止のため帳簿をつけよ。
帳簿もつけずに倒産したら死刑に処す」という法律をつくってまで帳簿の重要性を浸透させようとしていましたね。
坂本 そうでしたね。
500年ほど前にイタリアで出版された複式簿記について書かれた本の冒頭でも、商売繁盛の秘訣として帳簿に触れているんです。
まず「真面目な簿記をしなさい」。これは、ごまかすな。事実を事実のとおりに記録しろ、ということですね。
さらに「秩序を持って日々記帳しなさい」とも書かれています。
これらが商売繁盛の条件なんだと。
日本人は税務申告の帳簿を比較的ちゃんとつけています。
日本中の企業、個人事業主がつけている帳簿は、この国の“無形のインフラ”と言ってもよい、とすら私は思っています。
そうした考えから私は、金融機関と税理士がタッグを組んで、きちんと帳簿をつけている全国の中小企業を支援するスキームをつくりたい、ということを提唱し続けてきました。
その訴えが奏功したかはわかりませんが、2012年に「中小企業経営力強化支援法」ができました。
税理士も国が認定する支援機関として認可され、きちんと帳簿をつけている中小企業の補助金申請や経営再生のために働けるようになったのです。
今回のコロナ禍においても、政府からの給付金を受けるのに税理士がお役に立てたのではないでしょうか。
磯田 税理士さんは、これから経営者のパートナーとして知恵を指南してくれる存在としても貢献していくということですね。
坂本 はい。
税理士は適正な納税をお手伝いするとともに、中小企業の経営支援にも力を尽くしています。
そのことをひろくご理解いただけたらと思います。
◎本内容は、2021年8月に配信された読売新聞セミナーでの対談内容を再構成したものです。
「歴史からひもとく会計の役割」シリーズは、今回が最終回となります。ご愛読ありがとうございました。