多角化と緻密な業績管理で店舗網の拡大にまい進
【土屋政信税理士事務所 × いせや呉服店】
呉服専門店や振袖レンタル専門店を埼玉県内に7店舗展開するいせや呉服店。2021年からわらび餅専門店のフランチャイズ事業に参入するなど事業の多角化を進めている。先頭に立つ土屋亮太社長は、TKCシステムによる月次決算が成長の基盤になっていると話す。
明治8年創業のいせや呉服店(埼玉県深谷市)は、2年後に創業150年の大きな節目を迎える。展示会などで得意先向けに販売する本格的な和服、七五三や浴衣など若年層向けの商品、成人式用の振袖など幅広い商材を取りそろえている。6代目の土屋亮太社長は若年層から高齢者まで幅広い地域住民に和服と接する機会を設けるのがミッションだと話す。
「成人式でご縁のあった地域のお客さまが、将来展示会に来ていただけるようしっかりコミュニケーションをとっていかなければ、このビジネスの未来はないと考えています。私が入社した20年前は、大手呉服会社や有名問屋店の廃業がニュースになるなど業界に暗雲が立ち込めていましたが、同時にショッピングセンターへの出店が相次ぐなど新たなビジネスチャンスが広がった時期でもありました。後継ぎとしての私の選択肢は、現状維持か積極的な成長かの二つが考えられましたが、既存の2店舗を維持していくだけではなく、積極的に成長していく経営方針を決断。入社3年後に3店舗目を立ち上げ、入社5年目には店舗併設のフォトスタジオ『Komachi』をスタートしました」
今でこそ呉服店が写真館を併設するのは珍しくないが、当時はまだ先駆的な取り組みだった。七五三や卒業式など和服を着るイベント時の撮影ニーズをうまくとりこみ、写真館事業は順調に推移した。さらに購入からレンタルへという世の中の流れに対応し、2018年には振袖レンタルの専門店「ファーストコレクション」をスタート。若い人でも気軽に立ち寄れる店舗づくりで人気を博している。
■フードツーリズムも展開
こうして順調に業績を伸ばしてきたいせや呉服店だが、コロナ禍では窮地に陥った。緊急事態宣言時には一時的に休業を余儀なくされ、着物の展示会も中止に。もちろんフォトスタジオでの撮影も大きく減った。しかし、ここで守りに入るのではなく「もう一つ新しい事業をやりたい」と積極的に攻めるのが土屋流である。
「着物を着て散策するのが合うような観光地で、飲食店を展開できないかと考えました。フードツーリズムの観点ですね。いろいろなプランを模索した結果、わらび餅専門店『甘味処 鎌倉』のフランチャイズに新規参入することに決めました。地元の深谷市のほか岐阜県高山市や中部国際空港など全国で7店舗を展開しています。この事業への進出で、着物を中心軸としてその周辺の複数のサービスを提供する会社へと変貌をとげることができました」
川越店では試験的に着物のレンタルショップを併設、わらび餅を楽しむとともに着物を着て「小江戸」川越の街散策を楽しめる機会も提供しているという。
■「生きた数字」を経営に生かす
奮闘する土屋社長を税務面で支えているのが、顧問契約を締結する土屋政信税理士事務所である。もともと数字に強かったわけではない土屋社長は、土屋税理士から緻密な業績管理の重要性を学んだという。
「実は最初は正直に言って経理の重要性を理解していませんでした。経営者は父で、私はどちらかというと現場ばかり見ていて『とにかく売ればいい』という考えでしたからね。ところがある日、引退を決めた父から『しっかり決算書を読むことができ、数字で管理できないいとこれからの経営は難しい』ときっぱり言われました。その後土屋先生の指導もあり、徐々に月次決算の中身が分析できるようになっていったのです」
土屋社長がいせや呉服店に入社する少し前に、土屋税理士も事業承継のためふるさとへUターンしていた。土屋税理士は往時を次のように振り返る。
「深谷に戻ってきたのが2000年で、その時はじめていせや呉服店にごあいさつにうかがいました。伝票類の記入は当時すべて手書きで行っており、具体的な数字を確認するのは年に1回の決算だけ。先代も『売り上げは分かるが経費が分からない』という状況でした。『これではタイムリーに打ち手が打てない』と月次決算とTKCシステムを提案しました」
土屋税理士の指導のもと、変動損益計算書と貸借対照表の見方、キャッシュフローの流れなどを深く理解できるようになり、ついにはそれらが成長の前提条件であることを悟るようになる。
「事業および店舗数が増えてくると、売上高が増加しますが、それにともなって利益が必ず出るとは限りません。利益を出すためには、売り上げと費用の『生きた数字』を常に確認することが必要で、逆にいえばそれができなければ複数事業の運営や多店舗展開が成功することはないと思っています。今では最低1週間に1度はシステムを開き最新の業績を確認するようにしています」
こうしてTKCシステムの導入により、同社ではタイムリーに業績を確認する習慣が身に付いた。土屋社長は変動損益計算書で限界利益や固定費の金額を定期的にチェック、余裕のある資金繰りや展示会に出展すべきかどうかについての的確な経営判断に役立てているという。
「かつては得意先を招待して開く展示会を1年に6回開催すれば十二分に売り上げが立つ時代もありました。しかし今は倍の12回開催しなければ同じ数字を出すことはできません。全体に占める比率も40%程度になっています。開催数が多ければそれだけ経費もかかるので、展示会を開催すべきか、振袖レンタルなど新規顧客獲得に資源を投入すべきかを常に判断しなければなりません。その判断をするうえで欠かせないのが、月次決算によるスピーディーな業績把握だと考えています」
■金融機関からも高い信頼獲得
土屋社長はさらにDXの強化ができないか土屋税理士に相談。土屋税理士は業務で使用するさまざまなシステムとの連携性に優れ、複数拠点での入力利便性がある『FX4クラウド』へのグレードアップを進言した。
迷いなく導入を決めた同社では現在、売り上げ管理システムと会計システムをデータ連携させ経理業務の効率化を実現。呉服、振袖レンタル、フォトスタジオと四つの業態、店舗ごとに部門別で業績管理を行っている。
月次決算による素早い業績把握と経営判断は、資金繰りにもプラスに働いている。土屋社長は、コロナ禍におけるスムーズな資金の借り入れについてこう振り返る。
「先代が『借り入れはするものではない』という考え方だったので当社はほとんど無借金経営でやってきましたが、さすがにコロナ禍には運転資金が必要になり、ほぼはじめて1人で銀行に融資の相談に行きました。事業の内容や業績について説明しましたが、月次決算を通じた分析を行っていたおかげで、現状と今後の計画、予想についてしっかりと理解していただくことができました」
土屋税理士は「信頼度が高いTKCシステムだからこそ、納得を得られたのではないか」と推測する。「隠すことはなにもない」と胸を張る土屋社長はさらに、申告データと同じ内容のファイルを取引金融機関に自動送信できる「TKCモニタリング情報サービス(MIS)」も利用。積極的な情報開示の姿勢についてメインバンクの埼玉りそな銀行の瀬村泰紀深谷支店長は高く評価する。
「判断の基礎となるデータが月次で適正に締められているので、信頼性が高いと考えています。新規事業がスタートした局面などでは、前年度との比較ができないので金融機関としても判断に迷う局面がありますが、いせや呉服店さまはレスポンスがはやいので、こちらもいろいろと検討する時間がいただけます。本当にありがたいですね。月次決算を通じて各部門の売り上げと利益、さらに利益率が増減した原因をしっかりと分析し各事業部に的確に指示を出しておられるので、金融機関としても安心感があります」
コロナ禍への対応として運転資金の確保と同時に行ったのは、固定費の削減だった。15台保有していた営業車両のうち12台を処分したのである。営業車両の大幅削減と同時に、訪問営業が主体だった営業戦略からデジタルを主体とした営業手法に転換した。
「すでに月次決算を通じ削減に着手するなら営業車だということは分かっていたので、すぐに実行に移すことができました。以前は営業車両を使って1軒1軒回っていましたが、これを機に訪問営業をすべて中止し、代わりに電話での営業やホームページを使ったピーアールに切り替えました。整備費やガソリン代も含め広告宣伝費の圧倒的な削減を実現することができました」
レンタル振袖部門における営業活動に関しても、郵送での案内状送付をウェブやSNSでの案内に切り替え、経費削減に大きく貢献したという。脱アナログ化を進め若者ニーズのさらなる取り込みをねらう同社の今後に注目である。