見出し画像

「緊急融資」の迅速な獲得に役立った月次決算と業績開示

コロナショックに克つ
過去に例を見ない大惨事となりつつあるコロナショック。巷には「対応のしようがない」との声も聞かれるが、ベストを尽くしながら前を向けばきっと突破口が見えてくると信じたい。中小企業生き残りのヒントを探る。

【株式会社ブリットハウス × 東京GODO会計】

広告代理店で映像や音楽などの制作に携わっていた岩山雅洋氏は、1980年代も終わろうとするころノベルティを扱う部署に異動となり経験のなかった物販分野へ進む。次第にその魅力に取りつかれ、ほどなく革製品へと行きついた。その世界にどっぷりとはまるうちに、独立の意欲が沸き上がり、1999年6月、ブリットハウスを創業することになる。扱い商品は革製の手帳、財布、バック、靴など。企画から製造、卸売りまで一貫して手掛けるファブレスメーカーだ。その商品力が認められ、大手百貨店のプライベートブランドや著名ブランドのOEMも手掛けてきた。納入先は東急ハンズ、ロフト、三越伊勢丹、西武そごう、丸善など超一流小売チェーンばかり。

自社商品の特徴を岩山社長に説明してもらおう。

「当社では馬のお尻の部分の革を使用した“コードバン”という製品を扱っています。コードバンは牛革に比べてきめが細かく強度がある。原産国(ポーランド、北フランス等)からの材料輸入を扱う商社は2社ほどしかないのですが、当社はそのうちの1社とダイレクトに取引をしているので、安定した仕入れができています」
 
価格は牛革よりも相対的に高いが、ファンも多く、主に30~40代のエグゼクティブ層、ビジネスマンに人気があるという。

キャッシュフローにひっ迫感

しかし、数年前から次第に逆風が吹き始める。手掛けていた大手百貨店のプライベートブランドが縮小されたかと思うと、昨秋の千葉県の台風被害で取引店舗がダメージを受けた。10月からは消費税がアップ。今年に入って2月後半から、新型コロナ感染症による“自粛ムード”が追い打ちをかける。前年に比べて売り上げが2割程度落ち込んでしまったのだ。「運転資金にやや不安が出てきたのと、今春にリアル店舗の出店を計画していたこともあり、キャッシュフローにひっ迫感が出てきていました」と岩山社長。そんなタイミングで一通のメールが東京GODO会計の鈴木克児氏から送られてきた。「日本政策金融公庫で“セーフティーネット貸付”の融資を受けられたらどうでしょうか」3月6日のことである。

「日本公庫の上野支店にすぐに電話すると、手持ちの経営データなどの資料を送ってくれと。でも行った方が早いだろうと3日後に訪問。セーフティーネット貸付の場合、過去2期分の決算データが必要なのですが、直近の1期分はTKCモニタリング情報サービス(MIS)を利用し、すでに送ってあったので、前々年度の資料を持って相談にうかがいました」(岩山社長)

ちなみにMISとは、電子申告された申告書と同じものが、リアルタイムに金融機関にオンライン送付されるというサービス。

ブリットハウスでは、数年前に日本公庫から1500万円の借入をしており、訪ねたのはこの取引の際の担当者。一方、鈴木氏は、同支店のTKC案件の担当者に連絡し、別ルートからプッシュ。その甲斐あって、ほどなく正式な面談の日取りが記載された封書が送られてきた。さらにその一週間後、面談が実施され融資が事実上決定。既存融資の残高780万円を借り換え、さらに720万円の真水のキャッシュをプラス。グロスで1500万円の借り入れ(1年間の据え置き)となった。

「入金は3月30日でした。2月の後半にこのセーフティー貸付が発表されて、3月9日に相談にうかがった時にはすでに数万件の問い合わせが来ていると聞いていたので、時間が結構かかるのかなと思っていたら、とてもスピーディに融資を受けることができて助かりました」と岩山社長。

リアルタイムの業績把握


迅速な融資に結びついた理由は、まず、岩山社長の情報の拾得が早かったこと。東京GODO会計は、2月早々にはコロナ禍による資金繰りのひっ迫を予想し、関与先に緊急避難的なキャッシュを獲得するための情報提供を行っていた。また、MISによって1期分のブリットハウスの決算書がすでに日本公庫側に存在していたことも後押しした。MISは「まさかの時の資金繰り」を想定して、1年半前に導入していたもの。そしてもうひとつ、東京GODO会計と協力し合いながら月次巡回監査と月次決算を愚直に行ってきたという事実も大きかった。

セーフティー貸付には、もともと直近の実績が昨年比で5%減であることという条件がある。今回のコロナショックによる要件緩和によって「今後の影響が見込まれる事業者も融資対象」になっているが、やはり、しっかりと数値が出せればそれに越したことはない。そのためには、当然のことながら、リアルタイムの業績把握が必要となる。これは、その後に公表された「新型コロナウイルス感染症特別貸付」の売上高5%減、特別利子補給制度の要件である「売上高15%減」(小規模事業者)と「売上高20%減」(中小企業者)あるいは他の公的支援の要件をクリアする際にも十分に有効となる。

要するに、ブリットハウスは月次決算体制を構築していたおかげで、なんなく「前年比5%減」を証明できたというわけだ。

実はブリットハウスでは、昨年10月の消費税増税のショックアブソーバーとしての融資枠を使い、日本公庫より先に取引民間銀行から1000万円の借り入れを立てていた。これは、既述したように、東京・大田に『BALLBAND』(ボールバンド)というリアルのショップをオープンする資金でもあった。そのため、借り入れ負担をあまり増やしたくないという部分もあり、日本公庫では借り換えという手法を使って金利の低いキャッシュの創出につとめたのである。岩山社長は言う。

「コロナ禍以前から、百貨店などでの販売に限界を感じていて、ネットと実店舗による販売を強化し、徐々に卸売りから直販へと形態を変化させようと動いてきました。今後もこの方針をさらに進め、現在の深刻度を増す状況をなんとか切り抜けたいと考えています」






みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

TKC「会計で会社を強くする」