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フェリー航送と適時・正確な業績管理で「2024年問題」をチャンスに変える

「TKC経営指標」が定義する優良企業の要件を満たす中小企業は、いかなる流儀を貫いているのか。優良企業の要件を満たしているNSU物流サービスとフロントフォワードの2社を取材し、その流儀に迫った。

左から2番目が都甲三男社長、その右隣が濱田秀文顧問税理士

【オガウチ濱田税理士法人 × NSU物流サービス】

 濱田秀文顧問税理士による経営支援のもと、創業以来毎年黒字決算を継続しているNSU物流サービス(大分県宇佐市)。都甲三男社長は「タイムリーな業績管理と他社に先駆けて力を入れたフェリー航送を武器に、さらなる業績拡大を目指していきたい」と語る。

 厳しい残暑が続く8月終盤のある日。大分銀行高田支店の高田亨支店長は、融資先であるNSU物流サービスの応接室で同社の決算報告に耳を傾けていた。前期の業績と活動内容を説明しているのは同社の顧問税理士であり会計参与を務める濱田秀文税理士。陽光が窓から燦々と降りそそぐなか、高田支店長が口を開く。
 「『TKCモニタリング情報サービス』(MIS)で送られてきた決算書でも確認しましたが、自己資本比率が60%を上回っていることに驚きました。素晴らしいですね」
 高田支店長の発言を受け、濱田税理士が「30%を超えていれば優良企業と言われるなか、その倍以上の実績です。流動比率も180%に達していることから、財務体質がより強靭になったと言っても過言ではありません」と答えると、話題は売上高と限界利益の推移に移る。変動損益計算書にもとづいて、決算業績と打ち手の内容を濱田税理士が解説する。
 「売上高は対前年比で若干目減りしていますが、限界利益率はおよそ30%と数ポイント上昇しています。要因は多岐にわたりますが、影響がもっとも大きかったのが傭車(他の運搬業者に輸送を委託すること)を減らし、なるべく自社で運搬するように業務の仕組みを変えたこと。これにより、燃料費の高騰やフェリー運賃の上昇などの影響で物流コストが上がるなかでも、限界利益をしっかりと確保することができました」
 
■現状を打開し最高益達成

 さらに、濱田税理士は続ける。
 「人件費にも注目してください。4月に賃上げを実施したことで、人件費の総額が上昇傾向にあります。一方で限界利益の額も上がっていることから、労働分配率は対前年比で数ポイント下落しています。通常は人件費が上がると労働分配率もアップすることが多いのですが、前期は人件費の伸び率よりも限界利益の伸び率が大きかったことから逆の結果をもたらしました。人件費が上がり、それ以上に限界利益が上がる──。前期は会社と従業員の双方にとって、理想的な結果になったと言えるでしょう」
 濱田税理士の説明を隣で聞いていた都甲三男社長が「従業員全員が目の前の仕事に真摯に取り組んだこと、毎月の業績検討会で自社の課題をつぶさに分析し、傭車の削減といった現状を打開するための戦略を迅速に打ち出したことで、過去最高益を達成できました」と総括する。
 
■フェリー航送にいち早く着手

 では、なぜ同社は業績検討会を毎月開催するほどタイムリーな業績管理にこだわるようになったのか。その理由に触れる前に、まずは同社の成り立ちについて見ていこう。
 創業は1969年。もともとは西日本飼料運輸株式会社として、養鶏場や養豚場向け飼料の輸送を手掛けていた。その後、自動車メーカーの部品工場が大分県内に相次いで建設されたこと、そして「いいちこ」をはじめ多彩な酒類の製造販売を手がける三和酒類が商品の全国展開を始めたことを機に、幅広い輸送品目を扱うようになった。これにより、業績も拡大の一途をたどるようになる。
 一方で課題にも直面した。取引先が増えたことで近畿・東海・関東など遠隔地への輸送が求められるようになったのだ。そこで取り組み始めたのがフェリーを活用した輸送である。
 今でこそトラックドライバーの労働時間の規制が強化される「2024年問題」対策の一環で、大手企業を中心にフェリー航送に乗り出すトラック事業者が増えつつあるが、同社がフェリーを積極的に活用し始めたのは1974年のこと。同業他社よりもいち早く取り組んだおかげで、慢性的な人手不足や労働時間の規制といった課題に滞りなく対応できていると、都甲康貴営業部長は話す。
 「フェリーを活用することでドライバーの1日あたりの移動距離が短くなりました。労働時間も上限を超えることなく、時間外労働も他社と比べて少ないことから、従業員の定着率は高い水準を保っています。一方で、フェリー運賃が発生する分、トラック輸送と比べて物流コストが高くなってしまうのですが、フェリーで運搬するトレーラーを3台以上とし、1人の運転手がフェリーへの積み降ろしを担当することで採算を合わせています」
 車両が充実していることも強みだ。同社ではトラックを40台以上所有しており、積載量も2~14トンと幅広い。さらに全長8~14メートルにおよぶ大型トレーラーを100台以上所有。車両を多く備えておくことで、荷物の大きさや重量など状況に応じて最適な車両を配車でき、輸送の効率化や物流コストの削減につながっているという。
 
■タイムリーな業績管理が武器に!

 古くから手がけてきたフェリー航送と豊富な車両を生かした柔軟な輸送体制を強みに、地元では有数の総合物流業者として存在感を放つようになった同社。リーマンショックや東日本大震災などの影響で売り上げが落ちた時期はあったものの、TKC自計化システムによる業績管理と月次決算に取り組み、経営を立て直すための打ち手をスピーディーに実行したことで、これらの危機を見事に切り抜けてきた。
 「特に厳しかったのが、リーマンショックが起きた2008年あたりですね。というのも、その前年に5000坪の土地を購入し本社と倉庫を建てたのですが、売り上げが激減したことで近隣の経営者から『破綻してしまうのでは……』と心配の声があがりました。その時に、親身になって会社の経営計画づくりを支援してくれたのが、濱田先生です。毎月の業績データから当社の課題を指摘してもらい、売り上げの減少分をカバーするためのアイデアをひたすら議論しました」
 そう都甲社長が話すとおり、濱田税理士が同社の業績管理体制に与えた影響は大きい。1989年に顧問契約を結んで以来、税務・会計面から同社の経営をサポートしてきた濱田税理士。07年には会計参与に就任。以後、NSU物流サービスの一員として毎月の経営会議に参加するなど、同社の業績アップに向けた経営支援に引き続き力を注いでいる。
 「売り上げが伸びないなかでも利益を着実に残すべく、車両メンテナンスの内製化、役員報酬のカットといった施策を打ち出すなど、経費の削減に熱心に取り組みました。やがて運輸のニーズが復調し、倉庫事業が軌道に乗ったことでV字回復を成し遂げるのですが、その後も都甲社長は最新業績を頼りにしながら経営戦略を練るようになり、結果、毎期黒字決算を実現する〝強い会社〟をつくられました」(濱田税理士)
 その証拠に、ここ数年は「TKC経営指標」(BAST)における優良企業の定義をすべて充足。前期はコロナ禍の影響で売上高が若干落ち込んだものの、昨年を上回る限界利益、経常利益を確保したのはすでに述べたとおりである。
 一方の都甲営業部長も「燃料費の推移をリアルタイムで把握していたので、価格転嫁に向けた交渉にすぐさま臨むことができ、多くの取引先で運送価格の値上げを実現しました」と、緻密な業績管理に確かな手ごたえを感じているようだ。
 「2024年問題」や燃料費の高騰など、トラック業界を取り巻く環境は厳しさを増している。が、同社はフェリー航送と豊富な車両を活用した柔軟な輸送体制、そしてタイムリーな業績管理を武器に、さらなる業績拡大を実現することだろう。
 
※会計参与は、会計に関する専門家(税理士・公認会計士)が取締役と共同して計算関係書類を作成するとともに、その計算関係書類を会社とは別に備え置き、会社の株主・債権者の求めに応じて開示することなどを職務としている。会計参与は主に中小の株式会社の計算関係書類の記載の正確さに対する信頼を高めるための制度。(出所・日本税理士会連合会HP)

9月23日に放映されましたBS11特別番組「ドキュメント戦略経営者 未来を切り拓く-経営者と税理士の挑戦」の動画が以下のURLから視聴可能です。
https://www.tkc.jp/tkcnf/movie/bs11_senkei/


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