「こんな会計をしていると、会社も国もダメになる。」 歴史が教える教訓とは。
会計の役割と意義について、歴史から何が学べるか。
歴史学者の礒田道史氏とTKC全国会の坂本会長が語り合いました。
坂本 われわれTKC全国会は、日本の多くの中小企業に会計を指導させていただき、会社の成長・発展と経営のガバナンスに活かしてもらおうと取り組んでいるのですが、先生は「歴史から見た、会計において三つの悪いこと」という興味深いお話をされていますね。
磯田 世界の歴史や会計について学ぶうちに、会計には「会計三悪」というものがあると気づいたのです。
“三悪”のひとつ目は「会計を怠る」。そもそも帳簿自体をつけないということですね。
ふたつ目は「帳簿をつけてもそれを無視する」。帳簿を見ようともしないし、活かそうともしない状態です。
残りのひとつが「会計帳簿に不自然な操作を加えて正確な会計を見せない」。
この三つを、私は「会計三悪」と呼んでいます。事実、こうしたことをやっていた国家や経営体というのが繁栄を続けるというのは難しい、というのが歴史の教訓です。
坂本 なるほど。会計指導をする立場のTKC全国会にとっては、我が意を得たりというお話です。その歴史の教訓についてくわしくお聞かせいただけますか。
磯田 はい。たとえば、ルイ王朝の頃のフランスです。会計をきっちりやっていた頃はよかったのですが、段々と会計がおろそかになっていき、そこからさまざまな問題が起こるようになりました。
日本に目を転じれば、江戸時代でも改革をやろうという時は、会計を必ずきちっと締めています。たとえば、寛政の改革を主導した松平定信ですが、彼が自分の藩(白河藩)を改革する時にまず取り組んだのは会計の改革でした。隠していたお金の状況をちゃんと明らかにして「これだけある。これだけ足りない」と示し、実績を上げたからこそ、幕府でも寛政の改革に乗り出せたわけです。
会計をきちんとするということは、「自分の状態をきちんと見る」ということであり、とても大事なことです。これは国家でも経営体でも同じだと思います。
坂本 自分の状態をきちんと見るために「会計三悪」をやらず、会計を怠らない、無視しない、操作しないという会計三原則を守っていくことが大切なのですね。
磯田 そう思います。自分を知ることは本当に大切です。孫子だって「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と言っているでしょう。
帳簿の数字で自己認識をしっかりしておくことは、現代のビジネス競争に勝つための<孫子の兵法>なのかもしれませんね。
◎本内容は、2021年8月に配信された読売新聞セミナーでの対談内容を再構成したものです。
次回のテーマは、現代の中小企業経営に通じる「大阪商人が大切にしていた三つのこと」。どうぞお楽しみに。