世の信用を得るためには、 どうしたらよいか? その問いに、渋沢栄一は・・・
「信用」が大切と説く渋沢栄一の真意はどこにあるのか。
歴史学者の礒田道史氏とTKC全国会の坂本会長が語り合いました。
坂本 大河ドラマの主人公として「渋沢栄一」が取り上げられ、関心が高まっています。
先生は渋沢栄一のどのようなところを評価されていますか?
磯田 渋沢栄一は「商売をするうえで重要なのは、道徳心だ。競争はしても、道徳は守れ」と言っています。
では、なぜ道徳が必要なのか。「道徳のある人は信用が大きくなる。信用が大きければ大きいほど、大いなる資本を活用できる」と言うんです。
世に出ようとした時、先にお金を得ようとする人が多いのですが、渋沢栄一はまず「信用の厚い人になれ。それを心がけよ。お金とは信用の後についてくるものである」と説くんですね。
さらに、「世の信用を得るにはどうしたらいいか。それには、まず世間を信用してみなさい」と諭します。
要するに、自分が相手を疑っていながら、自分のことは信用せよというのは虫のいい話だ、というわけです。
つまり、正しく生きて、世の中を信用しながらやっていかないと事業を成功させるのは難しい、というのが渋沢栄一の考え方なのです。なかなかいいことを言うと思いませんか。
坂本 なるほど。現代の商品経済、自由主義経済は「信用経済」と言われますよね。目に見えない信用というもので資金が動く。これが発展する条件と言えます。
中小企業の皆さまには金融機関から信頼を得られるような処し方を渋沢栄一から学んでもらいたいですね。
磯田 そうなのです。信用があれば、資本も資金も集まる。商売もひろがる。
さらに言えば、信用が大切にされる社会であり続けるように経営者は努力しなければならないという想いを、渋沢栄一は持っていたのだと思います。
ところで、渋沢栄一は銀行をはじめとして多くの会社を興したことで有名ですが、坂本会長やTKC全国会の税理士さんたちは、中小企業の創業もサポートしていると思います。
会社の成長や発展における重要なポイントはどこにあるのでしょう。
坂本 さまざまな側面がありますが、基本は会社の状態をいかに冷静に把握するかということですね。今の状態をありのままに、しかも客観的に把握するには、帳簿がいちばんです。
操作しなければ数字は嘘をつきませんから。中小企業の皆さまに最善な打ち手や成長戦略などをアドバイスさせていただきながら、再び、日本に渋沢栄一のような経営者が出現しないものかと、密かに楽しみにしています。
◎本内容は、2021年8月に配信された読売新聞セミナーでの対談内容を再構成したものです。
次回のテーマは、日本の経済力向上の扉を開いた「福沢諭吉の<実学のすゝめ>」。どうぞお楽しみに