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経営を支える資金繰り 未曽有の危機に立ち向かう独立系居酒屋の奮闘

コロナショックに克つ
過去に例を見ない大惨事となりつつあるコロナショック。巷には「対応のしようがない」との声も聞かれるが、ベストを尽くしながら前を向けばきっと突破口が見えてくると信じたい。中小企業生き残りのヒントを探る。

「必ず復活します。七転び八起きですよ」
こう力強く語るのは、海鮮居酒屋を首都圏に6店舗展開するFGH商事の山田太郎社長(仮名)。コロナショックによる緊急事態宣言発令で、取材の数日前から全店の営業を停止しているにも関わらず、その不屈の経営者スピリットは健在。営業停止の当日には全社員を集め「会社は大丈夫だから安心するように。今は力を蓄えるチャンス」と訴えたという。

「いかにして会社を守るか」

創業は1990年代初頭。大手居酒屋チェーンのフランチャイジーとしてのスタートだった。21歳の時である。しかし、独立心旺盛だった山田社長は、仕入れから店舗オペレーションまでお膳立てをしてくれるフランチャイジーとしての出店を潔しとせず、2年後に独自ブランドで居酒屋をオープン。2000年代に入ると多店舗化を加速させていく。さらに、2006年にはショッピングセンターなどで惣菜店やファーストフード店を開業。新たな業態へ多角化していった。

とはいえ、事業を拡大する資金のほとんどを借り入れでまかなっていたため、一時は有利子負債が2億円強に膨れ上がる。そんな時、リーマンショックが勃発。法人の宴会需要が激減するなど、急転直下、窮地に追い込まれる。

山田社長は言う。

「その時に気づきました。われわれが生き残るには大手FCのような総合居酒屋ではなく、“専門居酒屋”でないとダメだと......」

山田社長が目指した“専門化”のコンセプトは「産直鮮魚と新鮮野菜の上質居酒屋」。社長自ら全国の漁港を訪問。イカ、ウニ、タイ、ホタテ、キンメダイ、サバなど、多彩な魚介類を函館から土佐清水まで全国から仕入れるルートを確立していく。

とはいえ、店舗コンセプトを変えるにはスクラップアンドビルドを行わなければならない。改装にも閉店にも資金が必要だ。

顧問の西川豪康税理士は言う。

「当時、社長から業態転換の意向をお聞きし、当事務所で中期経営計画の策定を支援しました。そして、取引銀行には借入金返済のリスケジューリングをお願いした上で、本業への一本化を進めました。山田社長は、キャッシュフローを重視しながら着実に利益を上げていく方向へと舵を切り、既存店舗のリニューアルに取り組まれたのです」

FGH商事の決算はそもそもがガラス張りだったという。山田社長の接待交際費はほぼゼロ。毎年の株主総会、そして決算報告会、事業計画発表会も行ってきた。電子申告した決算書のデータをそのまま取引金融機関にオンライン送付するTKCモニタリング情報サービスをいち早く導入したのも、その一環だ。

公私混同を嫌う山田社長の公明正大さは、当然、従業員にも伝わり、全社のモチベーションを上向けてきた。そのような素地があるだけに、リーマンショック後の“転換”もスムーズに行えたのだろうと西川税理士は言う。

「いかに利益を出して会社を守っていくかに意識を集中されるようになったと思います」

店舗の名前を新たにし、地元の千葉県だけではなく、2013年には東京都心部にも進出。現在は6店舗を展開し、年商は6億円前後。安定した利益体質を維持している。すくなくとも今年の1月までは......。

「何かがおかしいぞ......」

「何かがおかしいぞ」と山田社長が感じ始めたのが2月10日前後。東京の店舗での法人需要のキャンセルがぽつぽつと出始めたのだ。週をまたぐと、さらにキャンセルが増えた。2月27日、学校の一斉休校を安倍首相が要請してから一気に客足が衰える。新たな予約も一般の来店客も順次減少していった。

3月に入って13日の金曜日。西川会計の小曽根法子さんと繁田昌希さんが、FGH商事に巡回監査に訪れた。

監査を終えた後、小曽根さんは山田社長に「この後、ご用事はありますか」と尋ねた。

「唐突だったので、とまどいましたが、“用事がなければ今後の資金繰りの相談に日本政策金融公庫(日本公庫)へ行きましょう”と言われたので。“分かりました”と応えて、何も持たずに手ぶらの状態で出かけました。何しろ私は小曽根さんを“お母さん”と呼んで信頼していましたから(笑)」(山田社長)

訪れたのは東京・千住支店。日本公庫には「中小企業事業」「国民生活事業」と二つの窓口があり、FGH商事の事業規模から前者に対応している千住支店を選択したのだ。しかし、千住支店の担当者から過去に取引実績のある地元千葉県の松戸支店の国民生活事業に申請した方が早いとのアドバイスをもらう。結果的にこれが良かった。

とにかく着手が早かった。日本公庫に中小事業者が殺到する寸前だったために、いずれの担当者も親身に相談に乗る余裕があった。小曽根さんは「山田社長のすごいところは決断力です。迅速かつ臨機応変に対応することができる。柔軟なんですね」という。

資料をもらい、その日のうちに提出資料に書き込んで郵送。25日の面談にこぎつける。再び、小曽根さんの話。

「こちらの要望は、3000万円。公表されたばかりの“新型コロナウイルス感染症特別貸付”を利用すればいけるかなと思っていました。しかし、窓口の方には1000万円(返済期間5年)がやっとだと......」

そこで小曽根さんは、持参していたPCで会計ソフト『FX2』を開き、3月の最新の数字を呼び出した。この貸付制度は、直近の売り上げデータが前年あるいは前々年に比べて5%落ち込んでいることが条件。2人はすでに2月末の売上高の前年比較のグラフを印刷し提出していたが、話の中で山田社長が「3月に入って宴会のキャンセルが続いている」と発言したのを契機に、小曽根さんが今日までの売上速報の画面を呼び出し、前年実績との乖離をビジュアルで示したのだ。

「グラフなので大きく乖離していることが明確にご理解いただけました」(小曽根さん)

さらに、担当者に「2月末の各店舗別の業績はありますか」と聞かれたので、それも即座に「部門別損益比較表」を画面に呼び出し、山田社長が詳細を説明した。

小曽根さんは言う。

「そもそもコロナ禍に関係なく売り上げが落ちているのではないか、コロナ禍の影響はどれだけか、再生の目はあるのか、などと非常に突っ込まれて聞かれました。『FX2』で日々の売り上げを即座に集計・把握する体制を整えてきたからこそ、素早く応えることができたのだと思います」

その担当者は「こんなにすぐに直近のデータが出てくるなんてすごい」と驚くとともに「会計事務所がここまでサポートしている例はなかなかない」と感嘆。コロナ禍は状況の変化が極めて速いので、前月どころか当月の落ち込みを証明できるかが判断のポイントになってきている。その意味で、自計化(会計ソフトで自社の業績把握を行うこと)を行い、部門別に緻密な計数管理を実践してきたことが、この結果に結びついた最大の要因と言えるだろう。

こうして4月3日、満額の3000万円(返済期間10年)が入金された。

「あきらめるつもりはない」

「3000万円で十分だとは思いませんが、一息ついたことは確かです。緊急事態宣言はとりあえず5月6日までということになっているので、その後の店舗の再開準備を万全にすることに全力で取り組んでいきます」(山田社長)

FGH商事では、5月8日の金曜日からの再開を想定。6日に社員が集まり大掃除。まずは東京の店舗のランチ営業からのスタートになりそうだという。

肝心の従業員はどうか。現在は、自宅待機が続いているが、雇用調整助成金などの公的支援を受けながら賃金はできる限り維持する予定。また、コミュニケーションツール『LINE』を利用して、「全社」「店長」「店舗」など各グループ内での話し合いを日常的に行い、いつ、どのような指示が出ても対応できるよう準備しているという。また、この1カ月は「ただの休みではない」との共通認識のもと、その過ごし方についての指導も行われている。さらに山田社長の話。

「今回のコロナショックはマイナス面ばかりではありません。さまざまな業務改善のヒントを与えてくれました。たとえば、板前が料理を運んだり、フロアの人間が調理のサポートをしたりすることで、より少ない人数で店舗を運営することができるようになった。あるいは、大掃除をする良い機会だととらえてもいます」

西川税理士は言う。「山田社長は経験豊富な経営者です。いかに少ない資金で再建を行うかはリーマンショック以降実践してこられましたし、そういう社風を築き上げてもこられました。楽観はできませんが、大丈夫だと信じています」

巷では“あきらめ倒産”という言葉がしきりに喧伝されている。が、山田社長は今も未来も「あきらめるつもりはまったくない」という。



TKC「会計で会社を強くする」

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