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万全な準備とポジティブシンキングで危機を乗り切る

資金繰り新時代コロナショック編
長期戦が予想されるコロナ不況。「新時代の資金繰りのあり方」が、より一層、クローズアップされそうな雲行きだ。企業、金融機関、税理士の三位一体の取り組みをレポートする。


【株式会社スタジオタカノ × 税理士法人かなり&パートナーズ】

「大変な状況ですね」と話を振ると、「自粛が続く現在の状況はわれわれが“変わる”ための良い機会だと思っています」と笑顔を見せるスタジオタカノの髙野裕二社長。さらに、「私は不安を感じる頭のなかの回路がショートしているのかも」との冗談も。言わんとするのはテレワークやフレックスタイムなどの採用で働き方を変え、商取引や社会環境におけるこれまでの固定概念を取り払った経営マインドへと切り替えるきっかけにするべきだということ。今をそのための「種まきの時期」ととらえる髙野社長のポジティブシンキングには、コロナショックを迎えうつ覚悟を感じる。


新境地開拓への情熱

スタジオタカノは、一般顧客からの依頼による写真撮影を行ういわゆる「営業写真館」としての事業と並行して、入学式、運動会、卒業式などで毎年2000件以上の撮影をこなす“学校写真のプロ”としての側面も持つ。もちろん、コロナショックによる学校の休校、各種発表会・イベントの急減は、業績に深刻な影響を与えつつある。だからこそ、髙野社長のポジティブさが一層際立つ。

2017年に代表取締役に就任した髙野社長は、先代の築き上げた「写真館」としての伝統を尊重しつつ、新境地を開拓することに情熱を燃やしてきた。

たとえば「ドローン撮影」。東京都内の公立学校の卒業アルバムにドローン撮影の写真を取り入れたのは同社が初めてである。あるいは「アニマル撮影」もそう。“動物との共生”(petomoni=ペットと共に生きる)をスローガンに、撮影会やイベント、ペットをモチーフにしたアート画の制作・販売など行うこの事業は、スタートして2年、着実にユーザーの支持を広げている。さらに、少しさかのぼれば、掲示販売が当たり前だった学校行事の写真に、ネット販売という手法をいち早く取り入れたのも、同社の功績だ。2019年2月には「ホワイト企業大賞推進賞」を受賞するなど、労務にも定評がある。

「若いころからクリエーティブなことが好きで、家業も芸術のひとつとして見てきました。なので、私を含めて社員たちには新しいことにチャレンジする姿勢を奨励しているし、そのことが、現在のスタジオタカノを形作っているのだと思います」


金融機関との付き合い方

東京都教育委員会が新型コロナウイルス感染症による都立学校の休校を発表したのは4月1日。もちろん、行事は軒並み中止となった。いきおい、スタジオタカノの業容の柱のひとつである「学校写真」も開店休業状態。その分、4月の売り上げは落ち込んだ。しかし、髙野社長が慌てふためくことはなかった。

さかのぼること2月末。すでに髙野社長は、税理士法人かなり&パートナーズの横山光一税理士やメインバンクである西武信用金庫の担当者と、保証協会の「セーフティーネット保証4号5号」付き融資について情報交換を行っている。早くから冷静に現状を観察していたのだ。ちなみに、4号は「突発的災害」、5号は「全国的に業況が悪化している業種」(5月1日から全業種指定)によって業績が悪化した企業に対して、保証協会がそれぞれ100%、80%を保証するというもの。さらに、3月に入って公表された政府系金融機関による「新型コロナウイルス感染症特別貸付」についても、「いつでも申請できるよう準備している」(髙野社長)という。

横山税理士は言う。

「今回のコロナショックに関しては、まだ世の中が安閑としていたころに髙野社長から資金繰りについての情報が欲しいと相談を受け、スピードを意識した情報提供を行ってきました。月次決算の数字も早めに固めて、“月次での5%売り上げ減”などの要件を証明する必要資料をいつでも金融機関に提出できるようにしています」

正確な情報収集の大切さを熟知する髙野社長は、ここ数年、財務管理面のテコ入れにも乗り出している。その一環として、税務顧問をかなり&パートナーズに変更したのは、社長就任して間もなくのことである。

「会社の規模もそれなりに大きくなり、それまでの税理士さんではややものたりなくなっていました。そこで、タイムリーな財務データを提供していただけて、しかも資金繰りなど経営課題への対応力もある会計事務所をさがし、ある人にかなり&パートナーズさんを紹介もらったというわけです」

担当となった横山税理士はさっそく自計化(経理ソフトを導入して自社で財務管理・分析を行うこと)に取り組み、月次決算、経営計画策定、そして、かなり&パートナーズによる巡回監査、書面添付を実践。緻密な計数管理体制を構築する。同時に「TKCモニタリング情報サービス」(MIS)を導入。MISとは、顧問税理士の承認のもと、電子申告された決算情報がそのまま金融機関へとオンライン伝送されるというもの。髙野社長は言う。

「2018年7月期の決算データから、西武信金と日本公庫にMISで決算データを送ってもらうようにしました。取引のある金融機関には常に会社の状況を知っておいてもらった方がいい。情報の開示は、コミュニケーションを深めるきっかけとなり、結果的に信頼感の醸成、スムーズな融資にもつながるのだと思っています」

実際、スタジオタカノと両金融機関との関係は極めて良好。定期面談とまではいかないが、ことあるごとに相談を持ち掛け、新事業の展開についてアドバイスを受けるなど、横山税理士を“かすがい”にしながら親密な関係性を保っているという。

コロナ禍をプラスに

金融機関への緊急的な融資の申請はいまだ行っていないが、「臨戦態勢」はとっているという髙野社長は、コロナ市況の出口を9月と見積もっている。換言すると「9月まではなんとかなるが、それ以降は現状のままでは厳しい」ということ。たとえ資金繰りが一息ついたとしても、コロナショックの終息時期がまるで見通せないなか、ただ手をこまねいているというわけにはいかない。

「ひとつはITを活用してオンラインサロンのような非接触のコミュニティーをつくること。もうひとつはマン・ツー・マンに近いような対面サービスを強化すること。完全予約制で、衛生的な確認をとりながらの撮影会などですね。これらの事業を現在、思案中です」

新事業展開でポイントとなるのが髙野社長と従業員との関係性である。現在、スタジオタカノの従業員は正社員20名、パート・アルバイトを含めると25名に上る。前述した「ホワイト企業大賞推進賞受賞」の実績でも分かるように、髙野社長の従業員に向ける視線はひたすら優しい。有給休暇消化率は80%。育児特別有給休暇の取得は男女ともに可能だし、時間単位で有給休暇を使うこともできる。子供同伴、ペット同伴出勤も可というから驚きだ。

労務とペット事業の責任者である天野綾美さんは言う。

「多様な働き方を認めてもらえるので、とても働きやすいですね。それと、髙野社長は、好きなこと、興味のあることを会社のリソースを使って積極的に事業化することを社員に勧めています。労務環境の充実と並んで、それが社内の活気を生み出している面もあるのではないでしょうか」

そのようないい意味での「余裕」は、新たな市場を創り出す上での「種まき」につながるのではと天野さんは言う。

「いまや、収益が減るのはしょうがないと割り切って、将来顧客をつかむための種まきをする時期だと思っています。例えば、SNSでの積極的な情報発信をベースにしたマーケティングもそう。最近、“巣ごもり需要”を意識して子供向け工作教室のライブ配信を行いましたが、今後、このような取り組みを増やしていきたいですね」

髙野社長は若いころ、米国でファインアート(造形美術)を学んだ後、世界中をバックパッカーとして旅した経験を持つ。帰国後はカメラマンとして数多くの写真展を開催。被写体の“一瞬を切り取る”作業のなかで日常の「非連続性」を実感してきたのだという。それこそが、髙野社長の果敢な経営マインドを下支えしているし、「コロナ禍も解釈を変えればプラスにもなる」という、冒頭のポジティブシンキングの正体なのかもしれない。




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