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第2回 経理業務の属人化と業務標準化の必要性

はじめに


TKC「決算・申告応援マガジン」 でコラムを担当している、IS経理事務所代表の葛西一成です。
上場企業2社で経理部長を務めた経験をもとに、事業会社の経理パーソンに役立つ情報を提供してまいります。

今回、連載第2回目のテーマは「経理業務の属人化と業務標準化の必要性」です。
経理では、一部の担当者しか対応できない属人化された業務が存在します。特に決算業務では、会計基準の理解が求められるため、専門性が高くかつ属人化しやすいことから、業務自体がブラックボックス化してしまうこともあります。
そこで、こうした問題を解決するための基本的な考え方を解説します。

1.複雑なスプレッドシート業務の脱却(システム化)


経理業務では、日常的にスプレッドシートが使用されています。
例えば、月次業務における勘定科目の内訳明細表や予実管理資料の作成、決算業務における各種引当金の集計や税金計算などの決算整理仕訳を起票するための元データ集計といったように、さまざまな業務で使用されます。

このスプレッドシートは自由度が高く、思い通りの表の作成や集計ができる反面、業務が属人化や複雑化する原因ともなります。
特に、長年同じ業務を担当している経理担当者が、自分の作業のスタイルに合わせて独自のスプレッドシートを作成・管理することで、その業務が特定の個人に依存してしまうことが少なくありません。
このような状況は、業務の属人化を引き起こし、他のチームメンバーがその業務を引き継ぐ際に大きな障害となります。

また、スプレッドシートの複雑化が進むと、その管理やメンテナンスに多大な時間と労力がかかることで業務の効率が低下するだけでなく、誤入力や計算ミスが発生しやすくなるリスクも高まります。
さらに、スプレッドシートで大量のデータを扱うには限界があり、業務が複雑化するほど、エラーが発生する可能性が高まります。

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このような問題を解決するためには、業務のシステム化が必要となります。具体的には、経理業務の標準化を図り、共通の業務プロセスに基づいてシステム上で業務を進めることが重要となります。
既に、多くの企業の経理では会計システムを導入しています。
一方で、経費精算、請求書受領や固定資産管理といった特定の会計業務に関しては、まだシステム導入は進んでいない場合もあります。

これらの業務もシステム化をすることで、スプレッドシートに依存した業務を削減し、データの一元管理や処理の自動化が可能となります。
また、クラウドベースのシステムを導入することで、複数の担当者が同時にアクセスし、最新のデータを共有できるようになります。

システム化によって、データの可視化も進み、リアルタイムでの数値分析も可能となります。
スプレッドシートに比べ、システム上でのデータ管理はセキュリティ面でも優れており、データ漏洩のリスクを軽減することができます。
さらに承認機能も充実しており、システム上で承認も可能となるため、紙に押印するといったことがなくなり、ペーパレス化を促進させることも可能です。

2.本来の経理部門におけるスプレッドシート利用方法


経理業務において、属人化する複雑なスプレッドシートを減らしていくことは理想的ではあるものの、完全に脱却することは難しいと言えます。
中には、システム化に適さない業務や、コスト的にシステム導入が難しい業務も存在します。
また、スプレッドシートは、簡易的なデータ分析やレポート作成に非常に有用です。
例えば、システムからエクスポートした財務諸表データを加工し、過去のデータと比較分析する場合や、将来発生する費用(減価償却費など)のシミュレーションを行うためのツールとして活用できます。
こうしたことから、システムとスプレッドシートそれぞれの特徴を生かし、両方をバランスよく活用していくことが望まれます。

しかし、スプレッドシートを使った業務は属人化しやすいため、それを防ぐための対応策が必要となります。
例えば、以下のような運用ルールを設けることで、チーム内でわかりやすく見やすいスプレッドシートが作成できます。

(1)スプレッドシートを見やすくするために、フォントや数値の表示形式
   を統一する
(2)計算ミスを減らすために、できるだけ関数をシンプルにする
(3)スプレッドシートで使う色を限定し、色ごとに意味を持たせる
  (例えば、手入力は水色、合計欄は薄い黄色など)
(4)セルの結合を使わず、フィルターや並べ替え機能が使えるようにする
(5)スプレッドシートで作成する資料には、必ず金額の単位を付与する

これらは、わかりやすく見やすい、そして使い勝手のよいスプレッドシートを作成する方法です。
チームメンバーが統一されたフォントや数値の表示形式を使うだけでも、わかりやすさ見やすさが格段に良くなります。
スプレッドシートの関数も複雑すぎると逆に計算ミスを誘発させてしまう可能性が高くなるため、誰もが理解できるシンプルな関数を活用します。

このように運用ルールを設け、チームメンバー全員がそのルールを守れば、計算ミスも減らせる標準化されたスプレッドシートを作成することができます。

ただし、複数のルールを一度に導入するとメンバーが混乱する可能性もありますので、簡単に導入ができそうなところから順に適用して慣れてもらうのがよいでしょう。


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さいごに

今回のコラムでは、経理業務の属人化と業務標準化の必要性について解説しました。
経理部門は、システム化により効率化と属人化の排除を実現するとともに、スプレッドシートをうまく活用することで、業務全体の最適化を図ることが可能となります。
特に、スプレッドシートは属人化しやすいため、利用方法をルール化して運用の標準化を行うことが重要です。

適切なシステムとスプレッドシートの活用によって、経理業務のさらなる効率化を目指しましょう。

今後も、経理実務における課題と解決策について取り上げていきます。
引き続き次回以降のコラムもお楽しみください。

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プロフィール

                                             元上場企業経理部長
                    葛西 一成 氏

大学卒業後、通信機器メーカ―、食品やIT系など複数業界の上場企業及び上場子会社経理を経験。 東証プライム・グロース上場企業2社で経理部長を務めた後、独立開業。 現在は、決算業務サポート/会計関連システムの開発導入支援/執筆活動に注力。 X(旧Twitter)では、フォロワー1.6万人超の「経理部IS」アカウント で、経理の仕事ノウハウに ついて情報発信中。
著書:『経理のExcelベーシックスキル』中央経済社

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